脳梗塞を引き起こす「心房細動」

心房細動はなぜ増え、なぜ脳梗塞を引き起こす?

 脳梗塞といえば、昔は高血圧が原因だと思われていました。血圧の高い人は、脳梗塞を恐れて血圧をコントロールするようになり、高血圧による脳梗塞はかなり減りつつあります。ところが、脳梗塞自体は減っていません。なぜかというと、別の原因による脳梗塞が増えているからです。それが不整脈の一つ、「心房細動」による脳梗塞です。


 心房細動は、一定のリズムで拍動するはずの心房が細かく不規則に動くため、心臓の中で血液がよどんで、血の塊(血栓)ができやすくなります。それが血流に乗り、脳の血管を詰まらせて脳梗塞を引き起こします。心房細動が原因で起こる脳梗塞は、高血圧によるものよりも重症で、半分以上の方が亡くなるか、半身まひで要介護状態に陥ります。リハビリテーションをしてもなかなか元には戻りません。無症状のことも多いため、前日まで元気だった人に、突然起こるというのが怖いところです。

なぜ心房細動による脳梗塞が増えているか

 最大の原因は、急速に進んでいる高齢化です。心房細動は、年齢とともにかかる割合が高くなります。欧米のデータでは、60歳代で2%、70歳代で5~6%、80歳代では10%もの人がかかるといわれます。年齢を重ねるほど臓器の機能が落ちますから、これは誰もが避けて通れない道です。

 その次に重要な原因が、高血圧、糖尿病、肥満などの生活習慣病です。これらの生活習慣病のある人は、ない人よりも、心房細動になりやすいことが分かっています。また、心房細動の患者がこれらの生活習慣病を合併していると、より脳梗塞を起こしやすいことも分かっています。生活習慣病自体が右肩上がりで増えてるので、心房細動自体を予防することよりも、なってしまった心房細動を放置せずに、脳梗塞予防のための治療をするということの方が現実的です。

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薬物療法は、抗血小板薬から抗凝固薬、そして新規抗凝固薬へ

 血が固まらないようにするために、どのような薬で治療するのでしょうか。血液は、血小板(血を固める働きを持つ細胞)が集まって固まります。たとえば、血小板という『石』が集まり、間に『セメント』を塗って固まるようなイメージです。この『石』が集まらないようにするのが、『抗血小板薬』です。1980年代以降、脳梗塞を予防するために抗血小板薬が多く使われました。よく知られているのがアスピリンです。

 ところが2000年代に入ると、実はアスピリンは心房細動の血栓予防には効かないという驚きの研究が報告されました。血液がよどむと『セメント』だけで血が固まってしまうので、石を集めないようにアスピリンを飲んでも意味がなかったのです。代わって使われるようになったのが、『セメント』が固まらないように作用する『抗凝固薬』です。

 50年もの間、抗凝固薬はワルファリン(商品名:ワーファリン)の1種類だけでした。ワルファリンは用量が多すぎると大量出血の恐れがあり、扱いが難しい薬です。そのため、受診のたびに採血して、慎重に用量を調節しながら使われてきました。また、一緒にとるとワルファリンの作用を強めてしまう食品や成分が多く、納豆はダメ、風邪薬を3日以上飲んではダメ、整形外科の痛み止めもダメ、これは患者も大変なストレスです。



 患者が少なければそれでもよかったのですが、心房細動による脳梗塞が増えると、ワルファリンを広く使わざるを得なくなってきました。しかし、一人一人にテーラーメイド治療をする余裕は、日本の医療現場にはありません。医師は副作用を恐れ、積極的に処方しない状況が続きました。そんな時代を経て、この4年で立て続けに4種類も発売されたのが、新規抗凝固薬です(商品名:プラザキサ、イグザレルト、エリキュース、リクシアナ)

新規抗凝固薬は、何が新しいか

 新規抗凝固薬はワルファリンとは異なるメカニズムで作られた薬です。特徴は、まず食事制限が必要ないこと。そして、毎回採血して用量を調節する必要もありません。中には一緒に飲めない薬もありますが、ワルファリンに比べるとその種類は激減しました。しかも、4つの新規抗凝固薬のいずれも、脳梗塞の予防効果も出血リスクもワルファリン並みです。つまり、ワルファリンと比べて使いやすさが特徴です。  新規抗凝固薬の中には、発売から半年以内に、大出血による死亡例が出たものもあります。それは、本来ならば使ってはいけない患者や、慎重に投与しなければならない患者(腎臓の悪い高齢者など)に対して使われていたケースで、医療現場で適正に使用されていなかったことによる問題です。現在は、適切な使用ができるようになった段階です。

 なお、腎臓の悪い人や心臓に人工弁が入っている人には新規抗凝固薬が使えないため、現在もワルファリンが処方されています。長い間ワルファリンでうまくコントロールしてきた患者の場合は、新薬に代えると薬の自己負担額も高くなるので、わざわざ変更しないという人も多くいます。

新規抗凝固薬の登場で、脳梗塞が減ってきたか

 もともと日本人は、出血性の脳卒中が多く見られます。かつてはワルファリンを服用して起こる頭蓋内出血が、その約10%を占めていました。神経内科の医師によると、新規抗凝固薬が世に出て以来、ワルファリンによる頭蓋内出血が減ったといいます。一方、心房細動から起こる脳梗塞が減ったという報告はまだありません。真価が問われるのはこれからです。



脳梗塞で半身まひに…そんな結末を回避するため年1回は心電図をとろう

 海外の報告では、心房細動で脳梗塞を起こす人の40%は、診断されていない無症状の人だといいます。ですから、予防の第一は年に1回は心電図をとることです。65歳以上の人が心電図をとると、1%、100人に1人の割合で心房細動が見つかります。それほど高齢者では身近な病気です。

 定年退職後は年1回の健康診断を受けない人が増えますが、脳梗塞になる前に、心房細動を見つける機会をつくることが大切です。すぐれた新薬が開発されても、病気の存在に気付いていなければ、その恩恵を享受できません。

 現在40~50歳代の人、特に肥満や高血圧などの危険因子のある人は、20~30年後に心房細動から脳梗塞を起こす可能性がかなりあります。心房細動と診断されたら、すぐに病院で脳梗塞にならないように相談することが大切です。

(日経Goodayより要約)
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カフェ・ツィンマーマン・アンサンブル

 18世紀、ライプツィヒの聖カテリーネ通りにあるゴットフリート・ツィマーマンのコーヒーハウスでは、毎週コレギウム・ムジクムのコンサートが開かれていました。このアンサンブルはゲオルク・フィリップ・テレマンによって創立され、1729年から1739年までBACHの指揮で、音楽愛好家たちを前に器楽曲や世俗カンタータを演奏したといわれます。


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 聴衆とレパートリーと演奏家とを一つに結ぶ、この開放的な精神と親しみやすさに触発されて、1998年、アルゼンチン出身のバロック・ヴァイオリン奏者パブロ・ヴァレッティとチェンバロ奏者セリーヌ・フリッシュはカフェ・ツィマーマン・アンサンブルを設立しました。弦楽器5人とハープシコード1人の計6人が結成に参加しています。

 きびきびとしたリズム感を特徴とし、BACHの「さまざまな楽器による協奏曲集」のCDが絶賛され、一躍古楽界の重要なアンサンブルのひとつに数えられるようになり、コンサートにレコーディングに活躍しています。


 まずヴァイオリン協奏曲第2番(BWV1042)をお聴きください。ヴァレッティの艶のある音色のバロック・ヴァイオリンに惹かれます。




 次はセリーヌ・フリッシュのチェンバロでチェンバロ協奏曲第5番ヘ短調(BWV1056)ですが、この曲の原曲は消失したヴァイオリン協奏曲で、第2楽章にはカンタータBWV156の「わが足は墓にありて」のシンフォニアが流用されています。



 ブランデンブルク協奏曲第3番ト長調(BWV1048)は、このアンサンブルの特徴であるテンポの速さに驚きますが、演奏の乱れはありません。



 もう一曲、管弦楽組曲第2番ロ短調(BWV1067)をお聴きください。フラウト・トラヴェルソはアルゼンチン出身ディアナ・バローニです。フォルクローレの歌手を兼業しているという、ユニークな演奏家です。


アマゾン先住民、抗生物質耐性持つ遺伝子約30種を確認

 南米ベネズエラのアマゾン(Amazon)で暮らす先住民ヤノマミ(Yanomami)は、これまで外界との接触がほとんどなかったにもかかわらず、抗生物質耐性を持つ遺伝子約30種を保持するとの研究結果が、17日の米科学誌「サイエンス(Science)」電子版に発表されました。



 ヤノマミの人々の存在は、2008年に初めて上空から確認されました。09年にベネズエラの医療チームが集落を訪れ、34人から肌や口内の粘膜、便などのサンプルを採取しました。そして体内や体表上に生息するバクテリアや菌類、ウイルスなどの細菌叢(さいきんそう、マイクロバイオーム)について調べたところ、ベネズエラやアフリカ・マラウイの先住民と比べ、ヤノマミの人々の細菌叢は、はるかに多様性に富んでいることが分かりました。また、米国人の対照群と比べると多様性は2倍でした。

 ヤノマミの人々の健康状態はおおむね良好ですが、これは体内のマイクロバイオームが、これまで人間の集団で確認された中で最高水準の多様性を持つ微生物で構成されていることが影響していると、研究チームはみています。

 ヤノマミの人々はTシャツや山刀、金属の缶を持っており、限定的に現代社会との接触があったとみられていますが、加工食品の摂取や抗生物質の服用、手の消毒、帝王切開による出産など、微生物を減少させてしまう現代生活の要素の多くにさらされていないといいます。

 論文の著者の一人、米ニューヨーク大学(New York University)医学部のマリア・グロリア・ドミンゲス・ベロ(Maria Gloria Dominguez-Bello)准教授は、研究対象となったヤノマミの人々には肥満や栄養失調の兆候はみられなかったと述べました。ヤノマミの人々は魚やカエル、昆虫、バナナ、発酵させたキャッサバの飲料などを摂取して暮らしています。

憂慮すべき抗生物質耐性

 研究チームは、ヤノマミの人々は抗生物質に対するある種の耐性を持っているのではないかと考えました。土壌中の細菌には数百万年以上にわたって、抗生物質への耐性を持つそうした遺伝子が存在しており、たとえ抗生物質を服用したことがなくても、この遺伝子が人間に移転することは理にかなっているからです。

 研究の結果、驚くべきことにヤノマミの人々からは科学史上、発見されたことのない抗生物質耐性を持つ遺伝子30種近くが確認されました。さらに、これらの遺伝子は最近開発されたばかりの合成抗菌剤の一部に対しても耐性を示したといいます。

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 論文の共同著者、ワシントン大学(Washington University)医学部のゴータム・ダンタス(Gautam Dantas)氏は「ヤノマミの人々から、近代的な合成薬を不活性させる遺伝子が見つかったことは憂慮すべきだ。これは、抗生物質耐性が人間の細菌叢の自然の特性であり、しかし、抗生物質を使用した後にその耐性が現れ増幅することを示す、明確で新たな証拠だと考えている」と報道陣に語りました。

 抗生物質の時代は、ペニシリンが急速に普及した1940年代に始まり、その後50~70年代にかけて多くの抗生物質が発見され、市場に登場しました。その大半は土壌微生物に由来します。抗生物質は人間や家畜に広く使用されていますが、近い将来、抗生物質が全く効かなくなり、致死率の高い感染症が再び流行するのではないかと懸念されています。

(AFPBB Newsより)

部屋に太陽光をもちこむナノテク照明

 数千年もの間、人類は暗い室内に太陽の光をもち込もうと試行錯誤を重ねてきました。そしていま、本物の太陽に限りなく近い照明が完成しつつあります。CoeLuxによって、地下数百メートルにある部屋にも太陽の光が届く日が来るかもしれません。


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 イタリアのスタートアップが、太陽の光を真似た画期的な照明器具を開発しています。「CoeLux」は、特定の場所の太陽光をモデル化しています。寒色や、赤道直下の国々のくっきりとした影、地中海の太陽光の柔らかな輝き、すこしほの暗くて暖かな色だけれど印象的な北極圏沿いのパターンなどです。

 CoeLuxは従来のLEDを太陽と同じ波長に調整して使用しているのですが、太陽光を正確に再現するには、大気によって生じる微かな変化を再現する必要もあり、大気は場所によってその濃度や構成が異なっています。

 CoeLuxはナノ粒子を散りばめた、ミリメートル単位の厚さのプラスチックの層を用いていますが、これは本質的にはヒトの生活圏内と同じことをしているのでです。

 考案者のパオロ・ディ・トラパーニ教授は、ナノテクノロジーが実際のところどのように機能するのかについて明らかにしていません。しかし、審査を経た出版物や工業界での受賞の堂々たるリスト、顧客の証言を見れば、これらのデヴァイスが宣伝に違わず機能するのだと安心することができます。

 動的な性質の光を生み出すにもかかわらず、この照明器具には動く部分がないのが特徴です。LEDの「ホットスポット」、すなわち太陽に相当するものとしてつくられた部分の大きさや位置を、幅2フィート、長さ5フィートのフレーム内でコントロールすることにより、さまざまな質の光を生み出すことができます。熱帯ユニットには最も大きなホットスポットがあり、北欧ユニットでは最も小さいそうです。

 プラスチック・シートの厚みも同じくさまざまで、北欧の光については、熱帯の光より厚くすることによって、その地域の大気を模倣しています。この照明は紫外線を放射しないので、日焼けはできず、季節性情動障害の軽減に対しても効果は見込めませんが、地下室や倉庫、地下の住居を、まるでサンルームのようにすることができます。



 数千年もの間、人類は太陽光を暗い空間にもち込もうと努力してきました。エジプト人は複雑に並べた鏡を用いて、自然光をピラミッドの奥にもち込みましたが、これは多くの人手を必要とし、大規模な奴隷労働力がなければ、実現はできません。

 18世紀の北ヨーロッパの宮殿は、日がよく照った空を描いた、うららかなだまし絵のフレスコ壁画が特色ですが、これは長い冬の間、慰めをもたらそうと設計されたものです。ラスベガスのカジノは同様の技法を用いています。LED照明で室内を明るくすることで、利用客に自分はいま屋外にいるのであって、味気ないカジノに閉じこもって金を浪費しているわけではないと思わせようとしているのでです。

 ディ・トラパーニは、数多くの技術書を出版している教授ですが、CoeLuxについて尋ねられて、最初に参考文献として紹介するのは、ミラノの聖アンブロジオ教会の中庭や、ヴァン・ゴッホの絵画「種まく人」のような、芸術に関する著作です。

 「CoeLuxは自然を模倣するのではなく、自然を舞台上に置いているのです。芸術と同じように」と、彼は言います。「CoeLuxは、自然光と最も関連性のある特性、すなわち空と太陽光の動的相互作用に焦点を絞っています」

 芸術家同様、ディ・トラパーニは自分の光の質を、光が生み出す影の質によって判断します。「物体は太陽の直接的で暖かい光に照らされ、太陽の光は鮮明な影を投げかけます」と彼は言います。「しかし、こうした影は暗色や灰色なだけでなく、実際は空の散光のもとにあるために、青みがかっているのです」。

 このテクノロジーによって、新しい種類の建築物を生まれるかもしれません。エレベーターによって超高層ビルの建造が可能となったように、また空調設備によって建築物が多種多様なものとなり得たように、ディ・トラパーニはCoeLuxにより、「グラウンドスクレーパー (超地中ビル)」、すなわち地下何百フィートにも伸びているけれど、深く暗い穴の中に降りているとは感じさせない建築物の創造が可能になると、確信しているといいます。

(WIRED NEWSより)

汝ら泣き叫ばん(BWV103)

 今日の日曜カンタータは復活祭後第3主日のために、女流詩人ツィーグラーの台本よって作られた作品で、1725.4.22にライプツィヒで初演されました。

 当日の福音書から引用された章句に含まれる「悲しみ」と「喜び」の情念の対比はカンタータを展開するための絶好の素材で、BACHも両者の対比を発想のかなめに置き、情感に富んだ作品を作り上げています。


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 この曲の特徴は、フラウト・ピッコロ(ソプラニーノ・リコーダー)の可憐な響きで、初演の時この楽器の名手の参加があったためと思われますが、再演時にはヴァイオリン又はフラウト・トラヴェルソに置き換えられました。


 トン・コープマン指揮、アムステルダム・バロック・オーケストラ、ボグナ・バルトシュ(A)、イェルク・デェルミュラ(T)、クラウス・メルテンス(B)の演奏でお聴きください。



 コープマンはトラヴェルソを使ったrevised instrumentationも録音しています。この方が声楽とマッチしているかもしれません。




1. 合唱とアリオーソ (バス)

「お前たちは大声で泣き叫ぶだろう。

しかし、世の人々は喜ぶだろう。

お前たちは悲しむだろう。

だが、お前たちの悲しみは喜びに

変わるであろう」

2. レチタティーヴォ (テノール)

誰が悲しみに沈まずにいられようか、

愛する方が私たちから奪われようとしている時に。

魂の救いで、病んだ心の逃げ場である方が、

私たちの痛みを気にかけないとは。

3. アリア (アルト)

あなた以外には、心の医者は見つかりません、

ギレアド中を探しても。

誰が、罪によるこの傷を癒してくれるのでしょうか、

ここには、乳香もないというのに。

あなたが姿を隠せば、私は死ななければならないのです。

憐れんでください、ああ、聞いて下さい!

あなたが決して、私の破滅を望まないのなら、

それならば、私の心はまだ望を持ちえるのです。

4. レチタティーヴォ (アルト)

あなたは私を心配の余り

再び、元気づけて下さるでしょう。

だから私は、あなたの来臨を望むのです。

私は約束の御言葉を信じます、

私の悲しみが、

喜びに変わるだろうという御言葉を。

5.アリア (テノール)

元気を取り戻せ、濁った心よ。

お前たちは自分を傷つけ過ぎるのだ。

私が涙に沈む前に、

悲しい始まりから離れなさい(悲しい始まりを忘れなさい)。

私のイエスはふたたび現れるのです、

おお喜びよ、比べるものがないくらいの!

なんという幸せがそれを通じて私に起こるのだろうか、

取りなさい、私の心を捧げものとしてお受け取り下さい!

6.コラール

私はお前をしばしの間、

おお愛する子よ、置き去りにした。

しかし、さあ見なさい、大いなる幸運と

無限の慰めでもって

必ずやお前に歓喜の冠を

いただかせ、褒め称えよう。

お前のつかの間の苦しみは、喜びと

永遠の幸福に変わるだろう。

                (ターフェルムジーク鎌倉訳)

旨い肴はほどほどに!

 日本では、戦前は痛風になる人はまれでしたが、今は誰もが高尿酸血症・痛風を発症しかねなといいます。また高尿酸血症・痛風の患者のほとんどが過食傾向にあります。酒好き・肉好きの傾向がある中高年男性に特に多いといいます。


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高尿酸血症・痛風患者の食習慣に特徴的なこととして、

(1)動物性食品が中心の高蛋白・高脂肪食

(2)珍味を肴に毎晩過量の飲酒

(3)食抜き・まとめ食いなどの不規則な食生活

(4)野菜嫌い

といった傾向が指摘されています。

高尿酸血症・痛風の食生活改善のポイントとして、

(1)適正なエネルギー摂取

(2)プリン体・アルコール・果糖の過剰摂取制限

(3)十分な飲水

以上3点が挙げられます。

適正なエネルギー摂取

 「尿酸値が高い」となれば、どうしても、尿酸の原料となるプリン体に目が向きがちですが、まず考えなければならないのは、プリン体よりも、総エネルギー量です。とりわけ、メタボとの関連が強い人ほど、減量に励んで適正体重を維持すれば、尿酸値は下がって痛風のリスクも低下することが期待できます。

 大食い・早食い・不規則な食生活を改めるだけでも、減量にはかなり効果的です。肉類などに多く含まれるプリン体の過剰摂取を避けるため、かつては低蛋白・高炭水化物食が推奨されたことがありましたが、糖質(炭水化物から食物繊維を除いたもの)はむしろ肥満を助長することになるので評価が逆転しています。栄養のバランスが大切です。

プリン体を控える

 プリン体とは、プリン骨格といわれる化学構造を持つ物質の総称で、プリン塩基、プリンヌクレオチド(ATP)のほか、核酸にも含まれます。核酸は、グルタミン酸(アミノ酸の1種)と並ぶ旨味成分としても知られています。プリン体は細胞数の多いもの、細胞分裂の盛んな組織に含まれます。このためプリン体を多く含む食物は、旨いものが多いわけです。

食品のプリン体含有量(100g当たり)

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 実は、食物から摂取されたプリン体は多くが腸管内で分解されるため、食事由来のプリン体は、全体の20%程度で、体内で産生されるプリン体のほうが多いとされます。それでもプリン体過剰摂取を改めれば、尿酸値も低下することが多いので、「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン」日本痛風・核酸代謝学会では、1日400mg以内に制限するように勧めています。

 プリン体の摂取が多いと痛風発作が起こりやすいことを裏付ける研究報告もあります。1年以内に痛風発作を再発した患者(633人)について、再発前2日間と無発作時2日間のプリン体摂取量を調べ、痛風発作の再発リスクを検討したところ、プリン体摂取量が2日で850mg未満の群に比べて、約2倍の群では痛風発作の再発リスクが1.38倍、約3倍の群で2.21倍、約4倍の群では4.76倍でした。

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アルコール摂取を控える

 肉類・魚類、とりわけ焼き鳥、モツ煮込み、あん肝や干物…プリン体を多く含む食品は、いかにも酒の肴に似つかわしく、つまみ自体も過剰に摂れば問題ですが、それにアルコールが加わると、さらに高尿酸血症への道を突き進むことになります。

 毎日飲酒する習慣のある人は、痛風の危険度が2倍になるとされます。プリン体含有量の少ない蒸留酒やポリフェノールが多いワインは痛風の相対的なリスクは低めで、プリン体も糖質も多いビールを好む人のリスクが高いとされます。ビール 1缶(350mLにつきプリン体12~25mg)を毎日飲む人では 6年間で尿酸値が 0.5~1.0mg/dL 上昇するとの報告があります。

 最近は、プリン体や糖質をオフにしたビールも登場していますが、アルコール自体に肝臓における尿酸産生を高める作用があり、大量に飲めば尿酸の排泄が悪くなります。プリン体の有無にかかわらず、すべてのアルコールを程々にし、休肝日を設けるようにします。

果糖の摂取を控える

 果糖は、尿酸値を上げ、痛風発作のリスクを高めることが報告されています。果糖は、主に果汁や清涼飲料水に含まれています。ビタミンCには尿酸低下の効果もあるので、摂り過ぎなければ、果物の摂取も必要です。

尿をアルカリ化する食品を取る

 肉や魚が中心の食事は、尿が酸性になります。酸性の尿には、尿酸が溶けにくくなるので、尿路結石ができやすくなります。このため、プリン体含量の少ない野菜や果物、海藻類、キノコ類など、アルカリ性食品を積極的に取って、尿をアルカリ性にしておきます。

 野菜類を多く取れば、尿がアルカリ化し、肉や魚の食べ過ぎを抑え、水分が尿量を増やし、1石3鳥の効果があるといいます。刺身のツマの海草、ステーキの付け合わせのサラダなど、残さずに食べるようにします。

水分を多めに摂る

 尿酸を排泄させるためには、十分な飲水が必要です。尿路結石の予防のためには1日2000mL以上の尿量を維持するのが望ましく、食事以外に1日2000mL以上の水分を摂るようにします。

(Nikkei Goodayより要約)

「生体認証」が生活を変える

 社会のあらゆる場面でインターネット化が進み、スマホが生活者の消費行動のすみずみに入り込めばこむほど、安全(セキュリティー)が問題になってきます。消費者は、自分のことや自分の資産の安全を守ることが必要ですが、安全を求めれば求めるほど代償も大きくなります。

 スマホでのユーザー登録(ID)やパスワードの入力は、パソコンとは違ってキーボードがないためストレスがかかります。ある調査では、ネットユーザー1人当たり平均14サイトでパスワードを入力しているといいます。また複数サイトで共通のパスワードを使い回しています。人は3つほどのパスワードしか管理できないといいます。

 完璧なセキュリティーを求めるなら、サイトごとに異なるパスワードを設定して定期的に更新することが必要ですが、これはネットの便利さの代償です。

 もし「安全だが複雑で面倒」が「安全で便利」となれば、暮らしのあらゆる面が変化し、消費の促進も期待できます。今、安全と便利性を兼ね備えた例がでてきています。


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 グーグルが開発したアンドロイドを搭載したスマホは、任意のパターンを指でなぞることで認証する「指リスト」機能があります。スマホにパスワードを入力するよりも負担が少なく、しかも安全です。

 一方のアップル製の最新機種のスマホには「タッチID」というセキュリティー機能が搭載されています。スマホに指紋センサーを備えたことで実現した認証の仕組みです。スマホを使う際に面倒なパスワード入力の手間を省くだけではなく、ユーザーIDに指紋認証が統合されており、アップルが運営する電子商取引(EC)サイト「iTunesストア」の決済でも、指タッチだけで済む点で優れています。


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 さらにアップルは、電子決済サービス「アップルペイ」を米国で始めています。店舗にある端末に「iPhone」を押し当て、タッチIDで指紋認証すれば、決済が完了します。これが普及すれば財布が不要になる社会がさらに現実味を増します。

 指紋認証は「生体認証(バイオメトリクス)」の1つで、スマホのカメラを使った「虹彩認証」や「顔認証」も製品化の段階に入ってきました。今夏にも発売される米マイクロソフトの「ウィンドウズ10」にも、こうした多彩な生体認証がサポートされる予定です。



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 身に着けるセンサーという点では、眼鏡や時計などの「ウエアラブル機器」も、認証において重要な役割を果たしそうです。

 たとえば米アップルが4月に発売した腕時計型ウエアラブル端末「アップルウオッチ」では、皮膚面や発汗、心拍などを測定すし、特定のタイミングだけでなく、機器を身に着けている間はずっと利用者を認識し続けるため、その日のカロリーや運動量など包括的な生体認証が可能になります。

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 決済だけでなく、高度な医療を受ける時や、スマホやウエアラブル機器から自動車、住宅機器などを操作する場合にも、このような新次元のユーザー認証が中心的な役割を果たします。1990年代に米アマゾンはボタンを1回クリックするだけで注文できる「1クリック注文」で消費の世界を大きく変えました。それ以上の衝撃が消費行動や暮らし全体に広がろうとしています。

(日経Webより編集)

体内時計を無視すると がんになる!

 日本ではがんになる人が増えています。一生のうち2人に1人はがんになり、3人に1人はがんで亡くなっています。理由はいろいろありますが、生体のリズムを無視した生活をしていることが、がん発生の一因になっているといわれます。近年の研究により、体内時計を無視した生活が発がんを促していることが明らかにされてきました。

 私たちの体は、約60兆個の細胞によって構成されています。一つひとつの細胞核のなかには「生物の設計図」と言われる膨大な数の遺伝子が詰め込まれています。その一部には、「時計遺伝子」と呼ばれる十数個の遺伝子が含まれています。がん細胞は、時計遺伝子に異常が起こると発生することがわかってきました。



 人間の体を構成する60兆個の細胞は、細胞分裂によって日々、新しいものへと入れ替わり、働きを維持しています。これを新陳代謝といいます。1日に新旧が入れ替わる細胞は全体の約2%です。つまり、1.2兆個もの細胞が細胞分裂によって毎日生まれていることになります。

体内時計が狂うとがんになる

 これほど膨大な数の細胞が、周期的に正しく分裂を行えるのは、時計遺伝子がすべての細胞に組み込まれ、正常に働いているためです。しかし、時計遺伝子に異常が生じると、細胞が分裂するまでの周期に狂いが生じます。これが、がん細胞が発生する大きな要因のひとつだろうと考えられるようになってきました。

 時計遺伝子が細胞分裂と密接にかかわっていることの研究では、細胞内に存在する「ピリオド」という時計遺伝子は、マウスの正常な皮膚細胞では周期的に増減して、約24時間のリズムを刻んでいますが、体内時計を持っていないES細胞(胚性幹細胞)では、「ピリオド」が体内時計を作ることはできません。この研究によって、がん発生と体内時計の関係性についての研究がますます進むことが期待されています。

 私たち人類は、体内時計を持つことができたからこそ進化をとげることができた唯一の生物種です。しかし、大半の現代人は、体内リズムには目もくれず、昼夜関係なく好き勝手な生活を送っています。大勢の人々が次々にがんで亡くなってゆく背景のひとつに、体内時計を無視した生活環境があるのは間違いないといわれます。

 過去の生物の歴史を見ると、体内時計を獲得できなかった生物は地球上から淘汰されています。体内時計のリズムに素直に従わない人が次々とがんという難病に侵されています。これは自然の営みを無視し続けている人に対する、地球からの警告であるともいえます。

宇宙のリズムに呼応している私たちの体

 私たち人類は、太古の昔は時間に単位という明確な物差しを持っていませんでした。ただ、宇宙のリズムを全身で体感しながら生きてきただけでした。やがて人類は、文明を創造するなかで、時間の単位を構築し、単位によって時の流れを計算するようになりました。その単位を上手に使って生活を心豊かに彩りつつも、一方では、自然現象から宇宙のリズムを感じながら生きてきました。

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 私たちの体は、宇宙のリズムに呼応して動いています。この規則性を「サーカディアンリズム」といいます。「サーカ」とは「おおむね」、「ディアン」は「1日」という意味で、この生体リズムをコントロールしているのが、「体内時計」です。

 つまり、「時間」とは、宇宙のリズムがもたらす現象で、人が身勝手に制御できるものではありません。だからこそ、私たちは宇宙のリズムとサーカディアンリズムに調和をもたらしてくれる体内時計に、もっと謙虚な気持ちで向き合うべきです。

 時計は、1日24時間ときっちり計算します。しかし、私たちの体内に埋め込まれたサーカディアンリズムはそうではありません。サーカディアンリズムは、「おおむね1日のリズム」で、きっちり24時間ではありません。その理由は、地球の自転周期がだんだん延びていることにある、とされています。

 地球が誕生したのは、約46億年前と考えられています。そのとき、地球の自転周期はなんと5時間だったそうです。10億年前は約20時間、5億年前は約21時間という周期で、1日が徐々に長くなってきました。人間の祖先である霊長類が生まれた約3500万年前は、約23.5時間だったとされています。そして今は、おおむね24時間の周期で1日が繰り返されています。

 このように地球の自転周期は、ほんのわずかずつですが、日々、伸びています。こうしたズレに未来永劫に対応できるように「だいたい1日」という、伸びしろの大きいサーカディアンリズムが組み込まれたと考えられます。私たち人間は、24時間11分というサーカディアンリズムを持っています。

光を浴びて、サーカディアンリズムをリセットする

 地球上で、私たちが生きていくには地球の自転周期とサーカディアンリズムのズレを、毎日リセットしなければなりません。そのリセットの役目を果たしているのが、起床時の太陽の光です。

 「早起きは三文の得」と昔から言われていました。「規則正しい生活が大事」とは、当たり前すぎるほど健康の常識で、早寝早起きが体調をよくすることも私たちは体験的に知っています。

 しかし、なぜ早寝早起きが体によいのでしょうか。朝、太陽の光を浴びて体内時計をリズミカルに始動させることこそが、体内時計の老化を防ぐからです。体内時計が若々しくあれば、時計遺伝子は正常に働き、リズムよく活動することができるわけです。


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 もうひとつ、サーカディアンリズムのズレをリセットする方法があります。それは、1日3度の食事を決まった時間に取ることです。

 電気を獲得した現代生活では、光刺激に依存する体内時計は、どうしても崩れやすくなっています。常に強力な光を目に受けてしまう生活では、体内時計のリズムの振幅が小さくなり、活動と休息の時間のメリハリがなくなってしまうからです。しかし3度の食事によって「腹時計」をしっかり動かすことで、たとえ体内時計が乱れてきても、食事のたびにズレをリセットできます。

 体内時計を整えるためには、「腹時計」を正常に働かせることも必要です。「腹時計」とは、おなかのすき具合から時刻の見当をつけることです。時計がなかった時代には、天体の動きとともに、ヒトは腹時計で時間を感じていました。

 テキサス大学の柳沢正史教授は、2006年に腹時計の存在をマウスを使った実験によって明らかにしました。柳沢教授は、腹時計が脳の視床下部の一部である「視床下部背内側核」という部位にあることを発見しています。

 それに対して、体内時計は、腹時計とは別の部位、脳内の「視交叉上核」という部位にあります。これは、眼球と視神経により結ばれていて、太陽光の刺激によってリズムを刻んでいます。

 腹時計は先ほど述べたように体内時計とは別の部位にあり、視交叉上核に依存していません。腸の動きに連動していますす。空腹と食事のリズムから時間を刻んでいます。腹時計の力はとても強く、これが狂うと体内時計まで乱れてしまうことがわかっています。

(東洋経済オンラインより要約)

無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第2番 ニ短調 (BWV1004)

 有名シャコンヌを含むパルティータ 第2番全曲のバロック・ヴァイオリン演奏が、今年になってYoutubeに投稿されたので、早速聴き比べをしてみました。全5曲で構成されたこの曲は、5曲目のシャコンヌが全体のおよそ半分を占めています。
 シャコンヌとはフランスのゆっくりしたテンポの変奏形式による舞曲ですが、これほど長大なのは、BACHは作り出したら止めどもなくイメージが溢れだし、途中で終わらせるわけにはいかなかったのでしょう。しかもこの曲は名曲中の名曲です。


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第1曲 アルマンド

第2曲 クーラント

第3曲 サラバンド

第4曲 ジーグ

第5曲 シャコンヌ


 初めはシギスヴァルト・クイケンが韓国で公演した演奏会の録画ですが、正直いって年齢的な衰えは隠せず、演奏の乱れが気になります。ソリストとしての限界が見えてきたので、ラ・プティット・バンドの指揮者に専念したほうが良いと思います。



 しかしクイケンの名誉のために、1992年にハルモニア・ムンディに録音したシャコンヌをリンクしておきます。これは素晴らしい演奏です。


https://www.youtube.com/watch?feature=player_detailpage&v=CjnkFLmatfM

 次はドイツ人を父に、日本人を母に持つミドリ・ザイラーですが、30歳にして古楽アンサンブル、ベルリン古楽アカデミーのコンサートマスターに就き、ソリストとしても活動しています。特にシャコンヌでは、ppからffまで駆使したダイナミックな演奏に、目まいがするほどの斬新さを感じます。多少荒削りな部分もありますが、演奏会では大変受けるでしょう。CDで何度も聴くと飽きるかもしれません。



 最後はバロック・ヴァイオリンの名手、ルーシー・ファン・ダールの演奏です。ファン・ダールはオランダの女流演奏家で、レオンハルト・コンソート、ラ・プティット・バンドを経てブリュッヘンと18世紀オーケストラ組織し、コンサート・マスターに就いています。ソロ活動ではヴァイオリン・ソナタ、パルティータ等で高く評価されています。音が太く男性的な力強い演奏は私のお気に入りです。これを聴いたらモダン・ヴァイオリンのBACHは聴く気になりません。

もし自動車がハッキングされたら

 現在のクルマは、多くの操作系が電気的に接続されています。例えばアクセルペダルは、センサーにつながっていて、アクセルの踏み込み量や踏み込み速度を感知して、スロットルバルブを制御するのはモーターです。もしそのコントロールをウイルスに乗っ取られたらどうなるでしょうか?

 ブレーキも安心できません。メインの油圧回路はブレーキペダルと物理的につながっているものがほとんどなので、一見すると操作そのものには電気を用いていないように感じますが、アンチロックブレーキ用に電気的に油圧をコントロールするアクチュエーターが設けられています。路面の摩擦力に対してドライバーが強くブレーキを踏みすぎてタイヤがロックした時、車輪の回転速度を測るセンサーからのフィードバック信号によって、油圧を逃がしてタイヤのグリップを回復させ、回復したら再度油圧を上げるアンチロック・ブレーキ・システム(ABS)です。つまりブレーキのコントロールは電気的に行われています。仮にここを乗っ取られたらどうなるでしょうか?


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 最悪のケースとして考えられるのは、レーダークルーズの乗っ取りです。前述の加速と減速に加え、レーンキープアシストのステアリングコントロールまで奪われたら大変なことになります。「走る、曲がる、止まる」の3つ全てが奪われることになるからです。

 ただし、ステアリングに関してはドライバーがステアリングをしっかり握っていさえすれば大事には至らなそうです。レーンキープアシストの仕組みは、電動パワステのモーターに制御系から電気信号を送りステアリングを操作するものですが、通常ドライバーがステアリング操作をすればキャンセルされる仕組みになっているからです。常識的にはその優先権ごと乗っ取られることは考えにくく、それでも無警戒の時にいきなりステアリングが勝手に動き出したらリスクゼロとは言えなません。

今は大丈夫だが……

 クルマの電子制御系統は現状大きく3つに分かれています。エンジン制御系、シャシー制御系、インフォテインメント系です。

 インフォテインメントとは、情報のインフォメーションと、音楽や映像などのエンターテインメントをつなげた言葉です。具体的にはメーター内の車両情報(速度やエンジン回転数、ギヤポジション、水温など)、カーナビ、オーディオ、空調などをひとまとめにして情報表示や操作をできるようにしたものです。スマホやUSB、SDカードが接続され、外部からのウイルス侵入やハッキングのリスクにさらされるのは、このインフォテインメント系系統ということになります。

 しかし、インフォテインメント系統は、通常エンジンやシャシー系の制御システムと切り離されており、通信は双方向になっていません。情報伝達はエンジン&車両制御側からインフォテインメント側への一方通行の仕様になっており、インフォテインメント側からエンジン&車両制御側をコントロールすることはない仕組みになっています。さらに万が一に備えて、各システムの間にはファイヤーウォールが置かれ、万全を期しています。

 つまり、仮にウイルス感染した音源デバイスをカーナビにつないだとしても、ウイルスは車両の中枢部分に入っていくルートがなので、現状は安心です。しかし、実はこの“一方通行通信”が揺らぎ始めているのです。近年各自動車メーカーが、自動運転実験に取り組んでいるためです。

自動走行、自動車のネットワーク化……自動車のIT化が進む

 アウディは、無人の自動運転車でサーキット走行をさせ、その公式動画をYoutubeで公開しています。



 この動画の車両はアウディRS7ですが、この他にもスタンフォード大学がアウディTTに自動運転システムを組み込み、アメリカのサーキットでアマチュアレーサーにタイムで勝ったことを発表しています。もちろんもっと難しい条件の一般的な道路で混合交通の複雑な状況に対処できるようになるにはまだ時間がかかりますが、ハードウエア的にはすでに自動運転は現実の世界にあると言えます。

 しかし自動運転車両を商品化するためには、法律や保険など現行の制度を大幅に刷新する必要があり、自動車メーカーの技術だけでは実現できなません。そのため、自動車メーカーは関係各所に向けて、自動運転のさまざまなデモンストレーションを繰り返し、技術的可能性を世に問おうとしているわけです。

 確かに自動運転には大きな可能性があります。一般道を走らないまでも、例えば駐車場の入り口でクルマを降りると、クルマが勝手に空きスペースを探して駐車し、帰りにはリモコンスイッチでクルマを呼び出せる「自動運転バレットパーキング」のような仕組みも技術的にはすでにできています。“無人のクルマが公道をスイスイ走る”という話でなければ、限定的に法整備が進む可能性は十分にあります。

 また、周囲を走行している他の車両とネットワーク接続し、他のクルマのセンサー情報を共有することで、自車位置からは絶対に見えない位置の障害物情報を取得したり、ルート上の事故や渋滞情報を利用して安全性を増すことが可能になります。例えば、数台前のクルマが、何らかの障害物に対して急ハンドルや急ブレーキで対処したというデータが共有できれば、玉突き事故の回避などもできます。自動運転システムや車両情報ネットワークの活用によって、現在より事故のリスクが減らせることが明確に証明できれば、安全装置として普及する方向も考えられます。

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 つまり、自動運転とネットワーク化によって自動車が新しいステージに入り、飛躍的に利便性を高める可能性は大いにあります。

自動車の未来に立ちはだかるウイルス問題

 資金力のある自動車メーカーは、2010年代中にはこうした自動運転のクルマを販売にこぎつけたいと考えていますが、ここに立ちふさがる可能性があるのがウイルス問題です。

 自動運転とは、実は運転支援システムの集合体であります。ヒューマンエラーの防止を目的とする運転支援システムは、どうしてもさまざまな外部デバイスからの情報を制御系にフィードバックしなくてはなりません。例えば衝突軽減ブレーキは、人が操作しなくてもブレーキをかけるから運転支援デバイス足りうるわけで、この作動はセンサーからアクチュエーターまで必ず電気信号で制御されています。電子的に乗っ取りを行うことは不可能ではないはずです。しかしながら複数のシステムをまたぎ、異なるOSを越えてハッキングを行うのはかなり難易度が高いのもまた現実です。

 では、リスクはまったくないかと言うと、やはり脆弱な部分もあり、自動運転においてドライバーがクルマに目的地を指示する方法は当然カーナビを介した形になりますが、さまざまな端末はそのナビと回路的に隣接したオーディオと接続することになり、これらのインフォテインメントシステムは、これまでクルマの中枢システムから切り離されてきた分、エンジンや車両の制御系と比べてはるかに脆弱です。

 さらに今後の多機能化を推進するために、インフォテインメント系のシステムが組み込みの専用から汎用OSへと変わりつつあるのもセキュリティ的にはマイナスです。例えばホンダが欧州で「CRV」と「シビック」に搭載したインフォテインメントシステム「ホンダコネクト」は、Android OSがベースになっています。

 ここを狙い撃ちして、例えば行き先指示を乗っ取ったり、車両の現在位置を強制的に誤認識させるようなことは、中枢制御系を乗っ取るよりはるかにやりやすく、それもハッキングであることには変わりありません。

カー・ハッキングの脅威

 クルマの場合、コンピュータと違って、ハードウエアの耐用年数が10年以上あり、中古車を買えばリバースエンジニアリングは十分にできます。

 ユーザーにとってはまだ現実の心配は要らないクルマのハッキングですが、メーカーのレベルで考えると、すでに現実的な脅威になり始めています。

 そんな手間のかかることをしてまでクルマのハッキングをする必要があるのでしょうか? 前述のように自動運転とネットワーク化のポテンシャルが高いだけに、実用化に至ればメーカーの株価が大きく動くのは間違いなく、もしそこでハッキングというスキャンダルが流れれば、株価の暴落は避けられません。仮に株価操作を狙って、組織的にカーハッキングを行い、新技術の信用を傷つけることができれば、莫大なサヤ稼ぎが可能になります。

 ネットワーク化を見据えて、自動車メーカーでもファイアウォールの強化など、基礎的なハッキング対策はすでに始まっています。2012年には世界各国の自動車メーカーに部品を提供しているドイツのボッシュが、システムデータの暗号化を専門にする会社を傘下に収めました。ボッシュの子会社であるETASが、組み込みシステム向けセキュリティ技術とソリューションに特化したシステムハウスESCRYPT GmbHを買収したのです。

 ハッキング対策としては、まずデータの暗号化が最初です。リバースエンジニアリングをさせない。あるいはウイルスに扱えないデータにするわけです。しかし、自動車メーカーとしてはそれだけでは困ります。万が一セキュリティを破られた時には、ハッキングされたログをきちんと残して、自らも被害者であることを証明しなくてはならないからです。

 こうした取り組みはまだまだ散発的なものですが、それだけに様々な企業にとってビジネスチャンスでもあります。例えばパソコン系のセキュリティ大手、トレンドマイクロでも自動車のセキュリティソリューション開発への取り組みが始まっています。「クルマのハッキング? そんなことは絶対起こらない」という状況には、すでにないようです。

ITmediaより