ヒト受精卵「編集」で疾病遺伝子を修復

 生物の遺伝情報を自在に書き換えられる「ゲノム編集」の技術でヒトの受精卵の遺伝子を操作し、病気の原因となる遺伝子の修復に成功したと、アメリカなどの研究グループが発表しました。ゲノム編集をヒトの受精卵に応用する報告は中国以外では初めてで、倫理的な問題が指摘される中、ヒトの受精卵の改変がどういう条件なら認められるのか、改めて議論を呼びそうです。



 アメリカのオレゴン健康科学大学などのグループは、中国以外で初めて、ゲノム編集でヒトの受精卵の遺伝情報を書き換えたとする研究を2日付けのイギリスの科学雑誌ネイチャーに発表しました。研究グループは、突然死に至ることもある心臓の病気、「肥大型心筋症」を引き起こす特定の遺伝子の異常がある精子を正常な卵子に入れて受精させました。このとき、遺伝情報を書き換える特殊な物質を精子と同時に入れたところ、70%以上の受精卵で異常な遺伝子が修復されたということです。受精後、5日間、観察した結果、狙った場所以外での改変はなかったということで、研究グループの代表は、「遺伝性の病気がある人の家族や社会の負担を減らすことができる」と話しています。

 ゲノム編集の技術を使って受精卵の遺伝情報を書き換えると、遺伝性の病気の治療につながる一方、改変された遺伝情報が世代を超えて受け継がれるため、倫理的な問題があると指摘されています。研究は、ゲノム編集の倫理的な課題などについて、アメリカを代表する科学者でつくるアカデミーがまとめた勧告に従っているとしていますが、今回の成果は、ヒトの受精卵の改変がどういう条件なら認められるのか、改めて議論を呼びそうです。


議論の流れ

 ゲノム編集は5年前に従来よりもはるかに簡単で正確に遺伝情報を書き換えられる「CRISPRーCas9」という技術が開発されて以降、幅広い分野で研究が進んでいます。この技術をヒトの受精卵などに応用すると、遺伝性の病気の治療につながると期待される一方、子どもが生まれた場合、遺伝子を改変した影響が世代を超えて受け継がれたり、改変で予期しない副作用が起こりうるなど、倫理的な問題があると指摘されています。

 一昨年には中国の大学の研究チームがヒトの受精卵で遺伝子の改変を行ったと報告し、国際的な議論を呼ぶ中、アメリカを代表する科学者で作る「アメリカ科学アカデミー」で中国の研究者なども加わってヒトの遺伝子にどこまで応用すべきかについて議論が進められてきました。そして、アメリカ科学アカデミーはことし2月、2年近くにわたる科学的な意義や倫理的な問題など幅広い議論の結果をまとめた報告書を発表し、将来的には、ほかに治療の選択肢がなく、その病気に関わる遺伝子だけを操作すること、そして、数世代にわたる追跡調査や透明性の確保など、厳しい条件のもとで実施を容認しうるとしました。


専門家「使い方は慎重に」

 今回の研究について、生命倫理に詳しい北海道大学の石井哲也教授は、「アメリカでは受精卵の遺伝子を調べ異常がないものだけを選んで子宮に戻す着床前診断が広く行われているうえ、第三者から健康な精子や卵子を提供してもらう体制も整っているので、今回の研究が実際の現場で必要とされる可能性は低く、研究の目的に疑問がある。また、今回の研究は、高い確率で遺伝子を改変できる事実を示しているが、ゲノム編集で目や髪の色といったことも自在に操作できるという倫理的に問題がある利用を助長するおそれもある。ゲノム編集は難病の治療に有効な技術になり得るからこそ使い方は慎重になる必要がある。ヒトの受精卵をゲノム編集する研究について、日本には法の規制がないので、国は早急に対応すべきだ」と話しています。

(AFP BBnews、NHK WebNewsより)

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