「がん」がヒトの進化の過程で作られた経緯とは?

 がんの研究は日夜続けられていますが、がんを完全に克服できる治療法はいまだ発見されていません。がんは人間の進化に伴って生まれてしまった細胞なのですが、がんがどのような進化の過程で生まれてしまったのか、そして進化を続けるがんの治療法は発見できるのか、ということについて最新のがん研究がまとめられています。


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 2016年のアメリカがん協会の最新の研究によると、アメリカ人が一生のうちにがんを発病する確率は男性が42%、女性が38%であると算出されており、がんの脅威は増加傾向にあります。また、Cancer Research UKの調べでは、イギリス人の生涯の発がん率は男性は54%、女性が48%と、およそ半数の人が「がん」の脅威に脅かされています。アメリカより悪い傾向にあるイギリスでは、がん発症者数が2500万人に及んでいることが判明しており、今後5年間で毎年3%に当たる40万人ずつのペースでがん発病者が増加していくと予測されています。

 このように多くの研究が発がん率の上昇を示しているのですが、この理由を理解するには、がんが進化の「副産物」であることを理解する必要があります。これは、人間が地球上で最も高度で複雑な生物へと進化してきたが故に、がん細胞に対して脆弱性を持ち合わせてしまったことが一因となっているとのこと。


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 人間は精子と卵子が結合して受精卵となり、細胞分裂を続けて数兆個もの細胞から脳や臓器など必要なものが構成されていきます。体内の細胞分裂は厳しく統制されており、例えば胎児の手が形づくられる際には、適切なタイミングで細胞が自滅する「アポトーシス」が起こることで、5本の指が形作られるようになっています。

 がん細胞も同じく細胞分裂を行うのですが、重要な違いは細胞分裂のルールを無視してしまうことにあります。健康的な細胞は決められたルールに従って細胞分裂を行いますが、がん細胞は野生に放たれた獣のごとく、制御不能な状態で細胞分裂を続けてしまいます。がん細胞の分裂はp53遺伝子の命令を受け付けず、増殖を続けたがん細胞は数十億以上からなる悪性腫瘍になります。がんの問題点はこの性質にあり、腫瘍を切除したのちにがん細胞が少しでも残っていれば、がん細胞は再び増殖を繰り返して腫瘍を再形成するのです。

 さらに分裂したがん細胞は全てが同一の細胞ではなく、分裂のたびにさらなる変異を伴うことがあり、言い換えればがん細胞は常に進化する可能性を秘めています。壊れた細胞であるがん細胞を元に進化するため、その性質はよりがん性化してしまいます。この進化の傾向はチャールズ・ダーウィンが説いた自然選択説に基づいており、フランシス・クリック研究機関のがん研究者であるチャールズ・スワントン氏は、「がん腫瘍は直線的に進化していません。腫瘍内には2つとして同じ細胞は存在せず、分枝的な進化を遂げているのです」と説明しています。


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 がん腫瘍が絶えず遺伝子構成を変更していることが、まさにがんの根治を難しくしている原因です。一方で、近年ではがんの進化的アプローチに基づいたがん治療の研究が行われており、スワントン氏は肺がんに焦点を当てた新しい分子標的治療の確立を目指しています。

 スワントン氏は分岐進化の根源となる「木の根元」に対する治療法を研究しています。腫瘍内で分岐進化したがん細胞は、その内のいくつかが既存の治療法に対する耐性を持つようになることがあります。言い換えればそれらの細胞は免疫となるために進化した可能性があるため、スワントン氏は同時に3つのがん細胞の変異をターゲットに治療するという手法を考案しています。同時に異なる変異を攻撃する治療法により、攻撃を受けたがん細胞はさらに耐性を持つために変異する可能性があります。これを利用してほかのがん細胞を攻撃する変異を生み出すことができれば、腫瘍内の全てのがん細胞を残らず撲滅できるかもしれないとのことです。


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 イタリアのトリノ大学の研究者であるアルベルト・バーデリ氏もまた、進化による薬効耐性の解決策を研究する1人。バーデリ氏は耐性を持つがん細胞を「クローン」と呼んでおり、クローンを採取して特殊な「薬物治療」を行うことで、特定のがん細胞を攻撃する「薬効耐性」を開発するという試みを行っています。バーデリ氏の治療法が成功すれば、がんに薬物治療が不要になりため、治療によってがん細胞が新たな薬効耐性を開発することも予防できるとのこと。現段階では「クローン治療法」の効果は確立されていませんが、バーデリ氏の研究チームは2016年夏ごろに臨床試験を開始する予定です。

(BBC earthーGigazineより)
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