血圧はどこまで下げればいいのか?

 血圧が高いと、脳卒中や心筋梗塞(こうそく)などを起こす危険性が高まります。最近、これまで考えられていたよりも「低め」がいいとの研究結果が出て、話題になりました。しかし低くなりすぎることで起こるめまい、ふらつきも心配です。高齢者は血圧をどこまで下げればいいのでしょうか。

 「SPRINT(スプリント)試験」と呼ばれるこの研究は、血管の状態に問題を抱えるなどの50歳以上約9千人が参加。めざす血圧の値を120(ミリHg、収縮期)未満と140未満のグループに分け、その後の経過を追いました。すると3年あまり後には、120未満をめざして治療した人たちのほうが心臓病などの発症率が25%、死亡率は27%低く、中でも心不全を防ぐ効果がはっきりしていました。75歳以上の人たちに限って分析しても傾向は同じでした。

  日本高血圧学会が示す降圧の目標値は、65~74歳で140未満。75歳以上は150未満で、薬の副作用の問題などがなければ140未満をめざすとしていますが、SPRINTの結果だと「もっと低めの方がいい」ように見えます。

 ただ、この研究は「血圧の測定法が特殊」と指摘されています。参加者は医師や看護師らスタッフのいない場所で5分間安静にし、自動式の機械で測ったとされます。この方法だと医療スタッフの前で緊張して血圧がふだんより高めになる「白衣高血圧」を避けやすい。

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 この研究で120だった人が、診察室で測ったとすると値はどれくらいか。帝京大の浅山敬(けい)准教授が過去の調査をもとに算出すると、135くらいでした。これだと、日本で目標とする140未満とさほど変わりません。また、75歳以上で120未満をめざした人たちが実際に到達した値は、123が中心でした。


どのあたりで区別?

 血圧が高いと、血管が傷んで脳卒中や心筋梗塞などの「心血管病」で亡くなる危険性が高まります。国内の調査でそんな傾向は、高齢者でも示されています。桑島巌・東京都健康長寿医療センター顧問は「年齢が高くても高血圧はきちんと治療する。その意義がSPRINT試験でも確かめられた」といいます。

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 ただ、同じ年齢でも人によって健康状態はさまざまで、高齢になると高血圧以外にもいろいろな不調を伴いやすい。6メートルを歩く速さを調べるテストに参加したものの、歩ききることができなかった65歳以上の人についてみると、診察室などでの測定で血圧が140以上の人のほうが、140未満の人よりも生存率が高かったという米国の調査があります。6メートル歩けないような人は、治療で血圧を下げることでむしろ問題が起こる可能性があり、注意が必要です。

 一方、SPRINT試験に参加した高齢者はわりと元気な人が多く、体力がやや落ちた「フレイル」とされる人でも、血圧を下げることに利点が認められました。

 どのあたりで区別したらいいのか。大阪大の楽木宏実教授は「外来に1人で歩いて来られるかどうかが一つの判断材料」と話します。「少なくともそういう人であれば、高血圧はきちんと治療することによるメリットの方が大きい」

 今回の試験には含まれていませんが、糖尿病を伴う高血圧の人も多いく、高血圧だけの人よりも脳卒中などのリスクは高く、学会は糖尿病を伴う高血圧患者への降圧目標値を「130未満」としています。ただし高齢者ではまず、年齢層ごとの目標値をめざします。慶応大の伊藤裕教授は「元気な人なら、75歳以上でも130未満にすることに意味があるかもしれない。でも裏付けるデータは十分にはない」と語ります。


目標値、個々の症状に応じて

 高齢になるにつれ血管のしなやかさが失われ、血圧が大きく上下するようになります。立ち上がったときや食後に急に血圧が下がり、ふらつきや立ちくらみなどが起きやすくなるのはこのためです。転んで骨折につながる危険もあります。

 治療に使われる降圧薬は、血圧が急に下がりすぎないよう、高齢者の場合は通常の半分の量から始めます。気温が高まるこれからの時期は一般に、冬に比べて血圧は低めになるといい、状態に応じて薬を調整します。

 高血圧を招きやすい塩分のとりすぎにも注意が必要です。食塩摂取の目標は高齢者でも1日6グラム未満。ただし薄味のせいで食べる量が減り、低栄養になる恐れがあります。阪大の楽木さんは「無理に減塩するより、まずしっかり食べてもらい、塩分を体外に出す作用のある利尿薬を少し使う。患者によっては、そんな対応があってもいい」と話します。

 血圧の上がりやすい時間帯が朝の人も夜の人もいて、とくに高齢者では個人差が大きく、久留米大医療センターの甲斐久史・副院長は「同じ血圧値でも立ちくらみが出る人と出ない人がいて、特徴がぜんぜん違う。数値だけを見ていてはだめです」。安全な目標値は、それぞれに応じて設けることが大切といいます。

 個人の状態を知るために重視されるのが、家庭での測定です。上腕につけるタイプの機器で朝と夜、リラックスしてから測ります。数値は、記録して医師に伝えます。診察室で測るよりも低めに出やすく、学会の降圧目標値なども診察室での値より5だけ低く設定されています。

 宮川内科小児科医院の宮川政昭院長は、診察室での値が高血圧の基準に達していても、家庭血圧が長い間、安定して低い場合は、薬をやめて様子をみることがあり「家庭血圧はいわば『ふだん着』の血圧。よそ行きの診察室血圧より、その人本来の値を示しやすい」と宮川さんはいいます。

(朝日新聞Digitalより)

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