がん細胞に10分で大穴、3年内に治験

 バイオ医薬ベンチャーの日本抗体医薬が、新しいがん医薬品の開発を進めています。膵臓がんや卵巣がんの分野で、がん細胞に穴をあけて殺す攻撃力の高い抗体の実用化を目指し、3年以内に臨床試験(治験)に入るといいます。


新しい作用で

 その技術は、新しい作用でがんを攻撃する抗体薬を作るというもの。順天堂大学医学部の松岡周二助教の研究がもとになっています。



 抗体は特定の異物を認識してくっつくたんぱく質で、異物を排除します。抗体は通常、「補体」と呼ばれる成分や免疫細胞の力を借りて排除していますが、松岡氏が発見した手法で取り出す抗体は、それらがなくても、単独でがん細胞を排除します。がん細胞にくっつくと、10分前後で大きな穴をあけ、破裂させて殺傷します。このような抗体は例がなく、免疫細胞が弱ってしまった末期がんの患者でも、治療が可能です。

 特殊な抗体は以下の方法で作られます。

 まず、マウスに患者のがん細胞X(例えば肝臓がんの細胞)を移植します。2週間ほどするとマウスの中でXを攻撃する力がつきます。次に肺がんなどの細胞Yを移植します。すると今度はYを攻撃する力がつきます。これを繰り返すと、マウスのなかで、XもYもともに攻撃する抗体がつくられるようになります。

 次に、治療したい卵巣がんや膵臓がんの細胞Zをあつかいます。Zに対し、XもYも攻撃する抗体を作る細胞をランダムにふりかけると、Zのどれかに穴が空いて死に、そのZをやっつけた抗体こそが当たりです。その抗体を取り出して薬にします。

 患者から取り出した細胞Zをマウスに入れて、抗体をつくることは簡単にできますが、Zを提供したがん患者にしか効かず、同じ病気の他の患者には使えません。松岡氏の手法は、様々な患者が持つがん細胞Zに効く抗体を探せるといいます。

 松岡氏がこの作用を持つ抗体を発見したのは22年前。「がん細胞の死に方で、大きな穴が空くのを見たのは初めてだった」と振り返ります。


ヒト応用に研究

 そこでヒトに応用させるための研究を続け、2016年にこの手法を完成させました。XとYでマウスを「訓練」することを通じてそうした抗体が作られると予想した通り、汎用性が高い抗体が得られました。ただし、なぜがん細胞に穴ができるかはまだはっきり分かっていません。

 これまでに、血液がんである悪性リンパ腫や、胸部にできる中皮腫などのがん細胞を死滅させる抗体を3種類発見しました。標的にすべき分子が分からなくてもがんが死ぬか否かで探せるので、新薬候補の取得効率は高いといいます。

 安全性に関しては、ヒトの正常細胞には作用しないことを実験で確かめました。ただ、生体に投与した場合どうなるかは不明で、今後実験を重ねる必要があります。また、現在は松岡氏ががん細胞の様子を観察して検索しているため、抗体発見のスピードに限界があります。松岡氏は「患者が多く生存率が低い膵臓がんや卵巣がんでの開発を優先したい」と話しています。


抗体医薬:特定の異物を認識してくっつき、様々な作用で異物を排除する「抗体」を利用したバイオ医薬品。通常、標的となる異物のたんぱく質を認識して結合すると、免疫細胞や「補体」を呼び寄せ、それらががん細胞を攻撃して死滅させる。ミサイルのように狙った標的にピンポイントで届かせることができ、治療効果が高く副作用が少ないとされている。ただし、通常の開発方法では抗体医薬の標的にするたんぱく質の選び方が難しく、また標的に結合しても必ずしも効果を発揮するわけではなく開発は容易ではない。がん免疫薬の「オプジーボ」や、多種類の血液がんに使用される「リツキサン」などのように、全世界で数千億円を売り上げるものが多い。

(日経産業新聞より)
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