なぜ他人の体調の好不調が、臭いや外観で分かるのか?

 スウェーデンのカロリンスカ研究所の主任研究員であるMats Olsson氏らは、他人の病気を臭いと外見によって感じた時、ヒトは逃避行動を起こしやすくなる事実を示唆した研究を発表しました。発表によると、Olsson氏らは、被験者22人に無害な細菌の毒素を注射し、倦怠感、痛み、発熱などの症状を誘発したうえで、毒素の注射によって症状のある時(病気群)と生理食塩水だけを注射した時(健康群)の写真を被験者ごとに撮影し、その体臭を採取しました。

 次に、別のボランティア30人に病気群または健康群の写真を見せ、体臭を嗅がせながら、fMRI(磁気共鳴機能画像法)によって脳の働きを調べました。さらに、2群のどちらが不健康に見えるか、魅力的と感じるか、交流したいかを回答させました。

 

 

 その結果、脳は嗅覚と視覚から健康状態に関する微弱なシグナルを敏感に感知していました。健康群は病気群よりも魅力的で交流したいと回答する傾向が有意に高かったそうです。このような事実から、Olsson氏は「他人からの感染に対しては、免疫システムが働くため、回避行動が強く促されるが、親しい人が病気になった場合は、必ずしも回避行動を起こすとは限らない」と指摘しています。

 たとえば、鼻水が出ている相手にキスしたい人はまずないでしょうが、自分の子どもにならできる。つまり、ごく親しい相手なら、病気のシグナルは思いやり行動を促しやすくなります。

 今回の研究によって、脳神経は嗅覚と視覚を統合化して、病気のシグナルを感知していますが、免疫システムによって他人からの感染を回避しようと行動する機序が明らかになりました。

 

睡眠中も嗅覚だけは起きている!視覚、聴覚、味覚、触覚は眠っている!

 このような鋭敏なヒトの嗅覚系は、嗅球、僧帽細胞、鼻腔の天蓋にある篩骨(しこつ)の篩板(しばん)、鼻粘膜上皮、嗅糸球、嗅覚受容細胞から成っています。空気中の化学物質を感知するのは、鼻腔の天蓋、鼻中隔と上鼻甲介の間にある粘膜(嗅上皮)の嗅細胞です。嗅細胞膜上の嗅覚受容体(347〜910種類)のGタンパク共役受容体 (GPCR) が臭いの分子を感知します。

 つまり、嗅細胞に嗅覚受容体を活性化する臭いの分子が結合すると、嗅細胞のイオンチャネルが開くため、電気信号が嗅神経を経て、嗅球から前梨状皮質、扁桃体、視床下部、大脳皮質嗅覚野(眼窩前頭皮質)に伝わり、臭いを認識します。

 嗅覚以外の視覚、聴覚、味覚、触覚は、同じ経路を通り、視床から大脳皮質に伝わります。睡眠中、視床はほぼ閉じているため、視覚、聴覚、味覚、触覚の情報は大脳皮質に伝わりません。 

 一方、嗅覚だけは、視床を経由せず、そのまま大脳皮質嗅覚野(眼窩前頭皮質)に伝わるので、睡院中も嗅覚は働いています。

 ほ乳類の脳の神経細胞は再生しないとされますが、記憶を司る海馬にある神経細胞と、臭いの情報を最初に処理する嗅球にある神経細胞だけは例外的に再生します。嗅細胞の寿命は約20日〜30日です。

 また、嗅覚は視覚や聴覚に比べると、イメージや色などの記憶と調和する香りを呼び起こす作用が強いといいます。

 

臭いの好き嫌いを決める脳内メカニズムを解明!

 脳科学総合研究センター知覚神経回路機構研究チームの風間北斗チームリーダーらの研究チームは、ショウジョウバエ嗅覚回路の神経活動を記録・解読して、臭いの好き嫌いを決める脳内メカニズムを解明し、米国の科学雑誌『Neuron』(7月6日号)に発表しました。研究チームは、ほ乳類よりもはるかに少数の神経細胞で、ほ乳類と類似した機能を発揮するショウジョウバエ成虫の嗅覚回路に着目しました。

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 ヒトの嗅覚神経細胞の軸索は、同じ嗅覚受容体を持つもの同士が集まって糸球体を形成しています。糸球体は約50個存在しますが、糸球体は、ショウジョウバエでも同じパターンで配置されています。

 臭いの好き嫌いを評価するために、ハエの行動に応じて臭いや景色が変化する仮想空間を構築し、嗅覚情報を処理する触角葉という脳の領域の応答を調べ、臭いの嗜好を解読する糸球体の数理モデルを作成しました。

 その結果、糸球体は誘引(留まる行動)または忌避(逃げる行動)を促し、その活動の総和によってハエの行動が説明できる事実が分かりました。つまり、臭いの嗜好は特定少数の糸球体の活動によって決定されるという従来の仮説を覆し、糸球体による数理モデルが、新しく与えられた臭いに対する嗜好行動を決定する事実を示したことになります。

 したがって、嗅覚回路の機能や基本的な配線図は、ヒトにも共通であることから、今回の研究は、臭いの好き嫌いを決める普遍的な脳内メカニズムの解明につながりました。

 今後は、脳と機械をつなぐハードやソフトによって神経活動を探求するブレイン・マシン・インターフェース技術への応用も期待できます。たとえば、糸球体による数理モデルを拡張すれば、体の不自由な人の動きを機器でサポートでき、さらに神経活動から適切な情報を抽出できれば、うつ病などの精神疾患に特徴的な脳活動を検出し、より定量的なデータに基づいた確定的な診断・治療が実現するでしょう。

(Health Pressより)

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