腸内細菌の多様性が長寿の秘訣

 ビフィズス菌や乳酸菌などの腸内細菌は、健康長寿と関連があるといいます。90歳を超えても健康な高齢者は、腸内細菌の環境が30歳の頃と変わらないことが大規模研究で明らかになりました。



「腸内エコシステム」が健康維持に重要

 ヒトの大腸内には、およそ100兆個、500~1,000種類もの腸内細菌がすみついています。この数はヒトの細胞数よりも多く、またこの菌のかたまりを腸内細菌叢といい、花畑のように見えることから「腸内フローラ」とも呼ばれています。

 通常、腸内細菌叢はバランスを保っていますが、不健康な食事、ストレスや過労などの二次的な作用、あるいは抗生物質の摂取などさまざまな要因により、腸内フローラのバランスは崩れます。

 腸内フローラは複雑な腸内微生物生態系、すなわち「腸内エコシステム」を形成しています。腸内エコシステムは健康維持に重要で、バランスが崩れると大腸がんなどの腸そのものの疾患に加えて、1型糖尿病、2型糖尿病、肥満、高血圧、炎症性疾患など、さまざまな疾患に関わっていることが明らかになっています。

 腸内環境の乱れがさまざまの病気の発症に関わることが、最新の「メタボロゲノミクス」の技術で明らかになりつつあります。

 生物の遺伝情報を担うDNAを解析するシークエンサーが進歩し、数百兆個の細菌から構成されるヒト腸内細菌叢の集合ゲノム(マイクロバイオーム)を網羅的に解析できるようになりました。


腸内細菌がもつパワー 慢性腎臓病(CKD)を防ぐ作用が明らかに

腸内フローラがインスリン抵抗性の原因 腸内細菌が炎症を起こす

腸内細菌が糖尿病リスクに影響 腸内環境が血糖値コントロールに関与


健康な高齢者の腸内フローラは若者と同じ

 カナダと中国で行われた研究で、健康に歳を重ねる高齢者の腸内フローラは、健康な30歳代の若者に驚くほど似ていることが明らかになりました。

 「健康に長生きしている人は、腸内細菌叢も健康で、30歳の頃とあまり変わらない状態を保っていることが分かりました」と、カナダのウェスタン大学生化学部教授のグレッグ グール氏は言います。

 グール氏は腸内細菌の多様性を維持することが、さまざまな健康増進の効果をもたらすと指摘しています。 「たとえば、コレステロール値を基準よりも高くしないことが、心筋梗塞などの循環器疾患を予防するためのバイオマーカーとなるのと同じように、年齢を重ね体が老化するに伴い腸内細菌の多様性を維持することが、健康な加齢のバイオマーカーになると考えられます」と、グール教授は説明します。

 研究チームは、3歳の幼児から100歳を超える高齢者まで、健康とされる中国人の男女1,000人を対象に、腸内フローラを採取して分析しました。

 これらの人々から腸内フローラを採取して分析したところ、健康な高齢者の腸内フローラは、若い世代のものと相似していることが分かりました。

 健康な集団に一貫してみられたのは、「腸内フローラの多様性」でした。健康的なライフスタイルと食事が腸内エコシステムに影響している可能性があります。

 グール教授らは、今回の研究だけではこれらの因果関係は十分に解明されていないとしながらも、「今後、こうしたマイクロバイオームの背景にあるメカニズムを解明し、どうすれば健康長寿を達成できるかを明らかにしたい」と述べています。


「短鎖脂肪酸」を増やすために腸内細菌が必要

 最近の研究で、腸内エコシステムが、生体恒常性維持の重要な役割を担っていることが次々と明らかになっています。

 腸内フローラは、その宿主である人間の腸だけでなく全身のコンディションに影響を与えており、体内のもうひとつの臓器とも捉えられます。

 腸内フローラの60%以上は食事などの環境要因の影響を受けており、とくに「短鎖脂肪酸」の作用が大きいことがデンマークの研究で明らかになりました。

 「短鎖脂肪酸」とは、腸内細菌がつくる、酪酸、プロピオン酸、酢酸などの有機酸のこと。腸上皮細胞の重要なエネルギー源となり、抗炎症などの生理的な作用を発揮します。

 短鎖脂肪酸には、腸内を弱酸性の環境にすることで有害な菌の増殖を抑制したり、大腸の粘膜を刺激して蠕動運動を促進するといった作用もあります。

 短鎖脂肪酸を増やすために、体内にいる腸内細菌が必要で、そのエネルギー源となるのは食物繊維やオリゴ糖です。



食物繊維の豊富な「全粒穀物」が腸内フローラを改善

 精製された穀物の代わりに全粒粉や玄米といった食物繊維の豊富な「全粒穀物」を多く摂取すると、満腹感が得られやすく減量に効果的なほか、全身の炎症も低減することが、デンマーク工科大学の研究で明らかになりました。

 全粒穀物には小麦、ライ麦、大麦、オーツ麦、玄米、乾燥トウモロコシなどがあります。

 食物繊維の多い食事を摂ることで腸内細菌の活動が高まり、その結果多量の酪酸が作られ、この酪酸が炎症抑制作用のある細胞を増やしていると考えられるといいます。

 全粒穀物を摂取すると腸内フローラが改善し、血糖を下げるインスリンの効きが悪くなるインスリン抵抗性が改善することも示されました。

 「食物繊維が豊富に含まれる全粒穀物を食事に取り入れることが、腸内環境を改善し、健康増進のために勧められることがあらためて示されました。このことは、2型糖尿病や心血管疾患のリスクの高い人にはとくに勧められます」と、デンマーク工科大学ナショナルフーズ研究所のタイン ラスク リクト教授は言います。


腸内フローラの乱れが血糖コントロール悪化の原因

 腸内環境は、血糖コントロールとも深く関わっています。米国のイリノイ大学の研究では、血糖コントロールがずっと良好、あるいは徐々に改善する人の腸内では、腸内細菌が多くみられ、代謝や免疫といった体の機能に良い影響を与える善玉菌が多いことが判明しました。

 順天堂大学の研究チームも、日本人の2型糖尿病患者の腸内フローラと、腸内細菌の血流中への移行について調査しています。糖尿病患者の腸内フローラが乱れていることと、腸内細菌が腸内から血流中へ移行しやすいことが明らかになりました。

 インスリン抵抗性は、インスリンが体の中で効きにくい状態にあることを意味します。インスリン抵抗性により糖が十分に体の中に取り込まれなくなると、血糖が上昇します。肥満や運動不足などが原因ですが、腸内フローラのバランスの乱れにより慢性的な炎症が起こることもインスリン抵抗性の一因になっているといいます。

(保健指導リソースガイドより)

スポンサーサイト
コメント
コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する