演奏の比較『半音階的幻想曲とフーガ ニ短調』BWV903

 BACHのチェンバロ曲の中でも特に有名な曲ですが、同時代の写譜も多く、当時から人気のあった作品だと思われます。大胆な構想と絢爛たる演奏効果によってBACHの生前から強い印象を与えてきたといいます。

無題.png

 華麗なトッカータ形式のパッセージに始まり、続くフーガでも半音階的主題の厳格なフーガから熱のこもった自由な展開を示しています。チェンバロとクラヴィコードの演奏で聴き比べてください。


 最初にドイツのチェンバロとオルガン奏者ミカエル・ボルグステーデの演奏会の動画でお聴きください。フーガの主題に装飾音を加えた少し変わったスタイルです。



 クリストフ・ルセは、フランス生まれのチェンバロ奏者です。使用容楽器は1751年製のフランスのチェンバロの銘器アンリ・エムシュです。素晴らしい演奏です。


※動画が開かない場合は、画面最上部のタイトルをもう一度クリックしてください。

 スコット・ロスはアメリカ・ピッツバーグ生まれで、フランスおよびカナダを中心に活躍しましたが、38歳の若さでエイズのために夭折しました。この曲は死の1年前に録音されたものです。



 ブランディーヌ・ヴェルレはフランスのクラヴサン奏者です。チェンバロにしてはかなり自由な演奏をします。好きな演奏家ですが、次世代のクリストフ・ルセを聴いた後では少し物足りなさを感じます。



 Anna Maria McElwain はフィンランドの鍵盤楽器奏者ですがこの曲をクラヴィコードで演奏しています。しかし、華やかな曲想のこの曲には、やはりチェンバロの方が合っています。(あまり上手い演奏とは思えません)



 最後はグスタフ・レオンハルトの演奏です。使用楽器はBAHCと同時代の名工、クリスティアン・ツェルで、イタリア風の明るい響きを持ち、この作品にはぴったりの銘器ですが、鍵盤の音が少し気になります。私のCDコレクションです。



 この中で私が気に入った演奏はクリストフ・ルセとスコット・ロスです。レオンハルトはフーガに少し重苦しさを感じます。

 この曲は特に幻想曲に演奏家の個性がでます。聴き比べが楽しい曲です。
スポンサーサイト
コメント

チェンバロで聴いてみると

こんにちは。
この曲は、ピアノ演奏を何種類か聴いたことがあります。
特に好きという曲ではなかったのですが、重層感のある響きのチェンバロで聴くと、全然印象が違いますね。やっぱりいい曲だなあと思い直しました。

私も一番好きなのは、ロスとルセです。
ロスの演奏には、パルティータと同じように、惹き込まれるような吸引力があります。
音の線が太めで生気を帯びているので、有機的な生命力のようなものを感じます。
(ピアニストで言えば、クラウディオ・アラウの音にちょっと似ているかもしれません)
たっぷりと墨汁を吸って力強く書かれた一筆書き...みたいなイメージがします。

ルセの音は、柔らかくて明るく澄んでいるので、綺麗で品が良いですね。
「イギリス組曲」よりも響きがすっきりしていて、音質はこちらの方が聴きやすいです。
それに、アゴーギクがそれほど強くないので、フレージングも滑らかで洗練された感じがします。

yoshimi 様

コメント有難うございます。
おっしゃるとおり、この曲はピアノとチェンバロとでは全然印象が異なります。冒頭の部分をピアノで弾くと、アルペジオのようになってしまい曲が生きてきません。音量は小さいのですが、輝きのあるチェンバロの音でないと楽しめません。

本当かどうか分かりませんが、グレン・グールドもこの曲をあまり好まなかったようです。yoshimi 様がチェンバロで聴いて、この曲の良さが分かっていただけて大変嬉しく思います。私もあえてピアノは「演奏の比較」から外しました。

チェンバロはピアノ以上に使用する楽器の違いが出ます。ルセの弾くアンリ・エムシュの音が私の好みですが、表現力ではロスの方が圧倒的に優っていると思います。不自然なアゴーギクを感じさせない緩急のつけかたが絶妙です。円熟期の演奏を聞けなかったことがとても残念です。
コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する