Watsonが料理を創る、IBMが見るコンピュータの未来とは?

 日本IBMは12月4日、都内のレストランでメディア向けイベントを開催、人工知能「IBM Watson」を料理に利用する「コグニティブ・クッキング」の取り組みとWatsonの今後の可能性について紹介しました。
 今回IBMとイベントを開催した「レフェルヴェソンス」は、ミシュランガイド2015で2つ星を獲得したフランス料理レストラン。エグゼクティブシェフの生江史伸氏と、9000種類のレシピを学習させた「IBM Watson」が想像したレシピとのコラボレーション料理が提供されました。
 IBM Watsonがアメリカのクイズ番組「ジョパディ!」で2人のクイズ王を破ったのは2011年。それから4年、人々の生活に対していろいろな支援をしたり、ビジネスを変えていくことを提案していますが、今回の「シェフ・ワトソン」もその一つです。9000種類のレシピを学習、そのレシピを構成している材料、成分を化合物のレベルまで落として分析し、美味しいと感じるパターンなどを学んでいく。その上で条件を入力すると元のレシピにはなかった組み合わせのレシピを提案します。



 専門家の知識、手法を習うように学んでいくとWatsonが知識を拡張したり、補完したりできるようになります。一人の専門家が膨大なデータの処理をすることは困難ですが、Watsonはそうした膨大なデータを処理して新しい知見を想像します。IBMではこうした全く新しいコンピューターの使い方をコグニティブ・コンピューティングと呼んでいます。
 Watsonの機能として、その複雑性の度合いと、より高度な認知能力への要求として「Assistance(百科事典的な知識を活用する)」「Understanding(現象や人物のモデルを作り推論する)」「Decision(エビデンスにもとづき専門的な判断をする)」「Discovery(新しい知見の発見し価値を創造する)」の4つを挙げています。
 Watsonがアメリカで実際に使われている事例として、アメリカ軍を退役した人が市民生活に戻る際に出てくる質問や相談に答えるシステムや金融商品を活用するアドバイザー、治験の際に医者と患者をマッチングするサービスなどがあり、すでにWatsonに意思決定をさせるという専門性が必要な、高度な使い方もできるといいます。
 必ずしも正解のない世界で提案していくという最も高度な使い方「Discovery」。今回のシェフ・ワトソンもこの領域にあたるものですが、通常の研究者では読みきれない何万件という研究論文をWatsonに読み込ませ、がん細胞を抑制する遺伝子を作る酵素をWatsonを使って見つけ出した研究成果も紹介されました。
 同席した記者からは「Watsonがこれだけの仕事をしたら私たちの仕事がなくなってしまうのではないか」といった声も聞かれたぐらいです。同社ではWatsonが提示した情報を基に最終決定を下してビジネスを進めていくのはあくまでも人間で、Watsonによって人間の仕事はさらにクリエイティブに向かっていくとしています。 同社のウェブサイトでは、Watsonが日常生活の一部になったときの生活の予測として「コグニティブ・コンピューティングと拓く未来」という動画が公開されており、Watsonの可能性を感じることができます。



ミシュラン・シェフも驚く斬新なメニュー

 シェフ・ワトソンと生江シェフが考案したレシピに基づく料理を紹介ですが、シェフ・ワトソンにレシピを考えてもらうにあたり、生江シェフは「季節感を持ったフランス料理」にすべく、1つの料理につき、3つのキーワードを与えました。

メニューは以下のとおりです。

●アペリティフ 「リラックス」 [みかん]×[パンチ]×[休日]

●前菜 「冬の街で凍った体を」 [蟹]×[スープ]×[フランス風]

●蕪の料理 「君の蕪」 [蕪]×[ソテー]×[フランス風]

●肉料理 「贅沢な冬」 [牛肉]×[ロースト]×[冬]

●デザート 「気分は赤と白と緑」 [栗]×[パルフェ]×[クリスマス]

 アペリティフは、休日を過ごすように、お店で過ごしてもらいたいという思いから、3つのテーマが選ばれました。オレンジとミントの葉が相まって、さわやかな味わいです。パンも焼き立てで、どれもおいしい。


004.jpg005.jpg

 アペリティフ 「リラックス」     パン


 前菜は、寒いなか、店にやってくるお客様に温まってもらうために、冬が旬である蟹をベースとしたスープをオーダー。トリュフ、根セロリと、日本では珍しい食材が用いられており、正に「フランス風」を体現しています。蟹の風味が濃厚で、茹でた蟹を食べるよりも、蟹を満喫できます。

 そして、わざわざ蕪の料理を設けたのは、同店のスペシャリテが蕪料理だからとのこと。「シェフ・ワトソンが、われわれが得意とする蕪のソテー料理、どのように料理するのか見てみたかった」と生江シェフ。ローストした蕪が香ばしく、いろいろなソースで味えます。

006.jpg007.jpg

 前菜 「冬の街で凍った体を」     蕪の料理 「君の蕪」


 メイン料理に牛肉を指定した理由は、「やはり、おもてなしと言えば塊肉と思った」からとのこと。さらに、冬らしさということで、ローストという調理法が選ばれましだ。ソースは「西洋わさび(ホースラディッシュ)」をベースに作られていますが、生江シェフは「日本ではあまり使わない食材なので、久しぶりに調理した」と語りました。

 デザートは、見るからに華やかなパルフェ。生江シェフは、パルフェを選んだ理由について「パルフェと言えば、一口ごとに異なる味がするデザートで、思い出深い」と説明しました。そして、時期柄、「クリスマス」がテーマに選ばれました。その名のとおり、アイスクリームに、チーズのムースに、イチゴに、メレンゲと盛りだくさんです。

008.jpg009.jpg

 肉料理 「贅沢な冬」     デザート 「気分は赤と白と緑」


 そして、生江シェフはシェフ・ワトソンとのコラボレーションについて、「最初は、人間とコンピュータのコラボレーションということでおっかなびっくりだっが、IBMは、パソコンなどの身近な製品を作っていることに気づき、人間とコンピュータは共存するものであると思うようになった」と説明しました。

コンピュータの新たな可能性を示す”ワトソン”とは

 ワトソンは、これまでのコンピュータとは動作の仕組みが異なります。結論を導き出すための方法論や、結論そのものをデータベースとして最初から持っているといった作り方をされていないためです。

 ワトソンは人間の経験や知識を、自然言語解釈機能を通じて情報として取り込み、分析(すなわちワトソンなりの解釈へと咀嚼し)することで、”もしかすると、こうすればより良い結果になるかもしれない”との仮説を作り、その仮説が正解にどれほど近いものになるのか自己評価し、結果を学習します。

 導き出される結果は、新しく創造されたものであり、そのために状況を認知する必要があるため「認知的(コグニティブ)」なコンピューティングと名付けらました。

 ワトソンはその後、いくつかのバージョンが作られ、様々な分野で活躍しています。顧客の抱える問題に対応する答えを探す業務をサポートするため、顧客サポート部門の支援システムとして導入されたり、新薬開発のためにより高い治癒効果が期待できる分子配列を提案するといった創薬システムなどです。

人間の創造力を最大化するツール

 新たな発想を生み出す創造力に関して、コンピュータが人間に追き、追い越して仕事を奪おうとしているわけではありませんが、人間が不得手なことを代替し、サポートすることはできます。コンピュータは人間が把握しきれない膨大な量の情報を忘れず、そして保持し続けることができるからです。

 ワトソン自身が持つ”創造性”は、そうした膨大な、決して忘れない知識データベースと自己学習の結果から、”先入観なく”生み出されています。そこから導き出された提案は、人間の限界を超えた新発想を生み出す手がかりとなります。それこそがコグニティブ・コンピューティングの長所といえます。

(日経コンピュータ、RBB TODAY、マイナビニュース、東洋経済ONLINE他より)
スポンサーサイト
コメント
コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する