バロック・ヴァイオリンについて

 20世紀後半にオランダに始まった、グスタフ・レオンハルトを中心としたピリオド楽器(古楽器)による古楽演奏の復活は、今やBACHやバロック音楽の鑑賞には欠かせないものとなりました。私はBACHは古楽演奏でないと聴く気になりません。

 そこで古楽演奏の中心となるバロック・ヴァイオリンについて調べてみました。


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 モダン・ヴァイオリンとの外観の違いを写真で比較すると、左側のバロック・ヴァイオリンはネックが短く、指板も短いのが分かります。指板が短いと高音域の演奏ができなくなります。BACHの時代にはロマン派以降のような超高音域は使われなかったのでしょう。

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 側面の比較でもネックの違いがよく分かりますが、ネックに角度をつけて張力を増し、大きな音量が出るように改造されたのがモダン・ヴァイオリンです。有名なストラディバリウスもBACHの時代に作られたので、元はバロック・ヴァイオリンだったのですが、19世紀に殆どがモダン・ヴァイオリンに改造されたといいます。

 日本のヴァイオリニスト千住真理子は、約300年間誰にも弾かれずに眠っていた1716年製のストラディヴァリウスを数億円で購入しましたが、モダン・ヴァイオリンに改造してしまったため、貴重なデータが失われてしまいました。



 もう一つの大きな違いは弓(Bow)の長さと形です。上の3本がバロックボウですが、モダンボウに比べて張力が少ないのが特徴です。そのため、バロックボウで長い音を弾くと中膨らみになりますが(メッサ・ディ・ボーチェ)モダンボウでは最初から最後まで均一な音で弾けます。

 更にバロック・ヴァイオリンは金属弦ではなくガット弦を使用しています。ガット弦には倍音が多く含まれており、音色も異なり、アンサンブルにおいて他の楽器と自然に調和します。また、ほとんどのバロック・ヴァイオリン奏者は、顎当や肩当を附けずに演奏します。それがないことで、自由度が高く緊張のない自然な体勢をとることができます。弦は鎖骨と垂直に延び、演奏者の弓を持つ手の位置にも大きな影響を及ぼし、モダン・ヴァイオリンでは困難であったり、比較的不自然であったりするアーティキュレーションも容易になります。

 楽器についてはこのくらいにして、古楽器演奏は、いわば復元作業です。古楽器の特徴を活かす演奏法は、バロック・ヴァイオリン奏者でもかなり異なります。そこで対照的な演奏家を聴き比べてみます。

 まずはグスタフ・レオンハルトと共に活動してきたシギスヴァルト・クイケンの演奏は、力強いのですが、人によっては暑苦しいとか、ギコギコした演奏だといいます。BACH時代の素朴な演奏法を再現しているのでしょう。

 無伴奏ヴァイオリンののためのパルティータ第1番ロ短調 (BWV 1002)の最終楽章 Tempo di Boreaをお聴きください。



 対照的なバロック・ヴァイオリン奏者はトレヴァー・ピノック引退の後イングリッシュ・コンサートを引き継いだアンドルー・マンゼです。絹のような細い音から激しい音色まで自在に操ることのできるバロック・ヴァイオリン界の奇才ともいわれています。以前、演奏の比較『ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調』BWV1041では取り上げなかったのですが、かなり特徴のある演奏で、BACHの時代にこのような演奏をしていたとは思えません。また、アンドルー・マンゼは演奏中に前後左右に動き回るので、マイクで録音した音も移動し、少し聴きづらいと思います。




 もう一人イギリスのバロック・ヴァイオリン奏者サイモン・スタンデージの演奏を、同じ曲で比較してみてください。特に第2楽章の表現には大きな違いを感じます。私はこの演奏の方が好みです。


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