デジタル社会が脳に及ぼす悪影響とは?

 スマートフォンの登場によりインターネットにいつでもどこでも接続できることで、最新のニュースを読んだり、友人とメールやSNSでコミュニケーションを取ったり、多くのことが手軽に処理できるようになった反面、あふれすぎた情報を処理するのに人間の脳に以前よりも多くの負荷がかかっていると指摘する識者がいます。カナダにあるマギル大学の心理学および行動神経科学学科の教授であるDaniel J Levitin氏は、デジタル社会に警笛を鳴らす人物の一人であり、デジタル社会と脳の関係を明かしています。


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 現代社会において、人間の脳は以前よりも忙しくなっていると言えます。メール、SNS、インターネットと何でもできてしまうスマートフォンは1980年代に発売されたIBMのPCよりも性能が上で、例えば、昔なら代理店に一任していた旅行の計画も、飛行機やホテルの予約・観光情報・現地での移動手段など全てをスマートフォンでできてしまうわけです。

 ただし、スマートフォンには問題があります。「スマートフォンでマルチタスクを処理することができるようになった」という人がいますが、そもそもスマートフォンやPCでメールやSNS、ゲームなどを同時にする作業はマルチタスクではありません。MITの神経科学者であるEarl Miller氏は「マルチタスクは多くの作業を同時進行しているわけでなく、すさまじいスピードでタスク処理を切り替えているにすぎない」と話し「マルチタスクは作業効率が悪くなる」と指摘しました。

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 マルチタスクは脳内でストレスホルモンの一種であるコルチゾールの分泌を促進する効果があることが今までの研究で判明しています。コルチゾールは脳に刺激を与えて思考を妨げる作用があり、これによりマルチタスク中は頭に霧がかかったような状態になって集中力を失ってしまうとのこと。さらに、脳がマルチタスクからの刺激を絶えず求めるようになってしまう作用もあり、マルチタスクのために脳を酷使すると結果的に集中力や注意力が欠如してしまうそうです。

 据え置き型の電話しかなかった昔は、忙しい時に電話がかかってきても無視して、電話をかけてきた相手も「外出していて留守なのだろう」と考えるのが一般的でした。現代ではスマートフォンや携帯電話の個人所有率がトイレの個人使用率よりも高くなっていて、誰もが使っていると言っても過言ではありません。そのため、電話をかけた相手が出ないと「外出していて留守なのだろう」ではなく、「後でかけ直してくれるだろう」と思う傾向が強くなる、つまり、不在着信に対する行動への期待が高くなってしまい、ストレスになることがあります。


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 マルチタスクに関しては、前述以外にもさまざまな研究から脳に悪影響を与えていることが判明しています。例えば、ロンドン大学精神医学学科のチームの研究では「他の作業中にEメールや電話を確認するマルチタスクがIQを10ほど低下させ、数値で表すとマリファナを吸引したときの約2倍低下している」という結果が報告されました。

 また、マルチタスクは学習能力にも支障をきたすことがカリフォルニア大学の心理学教授であるRussell Poldrack氏の調査で判明しています。通常「海馬」と呼ばれる部分に学習から得た情報やアイデアを保存するはずなのに、マルチタスク中の脳はスキルに関与する脳の部位「線条体」に新しい情報を保存していることが確認されていて、脳はそのような仕組みになっていないため負担がかかってしまうわけです。

 スマートフォンのマルチタスクにはもう1つ脳に多大な負担をかける行為が存在します。それは「意志決定」です。「削除しますか?」「電話に出ますか?」「メールを保存しますか?」など、スマートフォンの作業は数多くの意志決定がつきもの。意志決定は脳のリソースを消費するのですが、意志決定の重要度にかかわらず消費するリソースの量は同じなので、意志決定の数が多いほど脳に負担がかかります。

 Levitin氏が警笛を鳴らしているのはマルチタスクだけではありません。手紙の代用として登場したメールも脳に悪影響を与えていると言います。手紙とは違って一瞬で送信できるメールはビジネスマンにとっては欠かせないツールの1つ。しかしながら、企業のCEOともなると、毎日大量に受信するメールの処理だけで多くの時間が奪われ、「メール処理が自分の仕事では?」と錯覚してしまうこともあるそうです。


 手紙を使っていた時代にはすぐに返信がくるなんて誰も期待していなかったものの、現代ではメールをすぐに返信するのは当たり前。メールを返信するために作業が中断され作業効率や集中力を失ってしまいます。また、メールを返信するのにも脳に負担がかかる意志決定が必要。さらには、スマートフォンでメールをすぐに確認できてしまうため、「さっき受信したメールがもし緊急の案件だったらどうしよう?」といった不安に駆られてメールを常にチェックしてしまう人もいます。

 若者からお年寄りまで浸透してきたSNSもメールと同様に脳に負担をかけるツールの1つです。SNSの悪いところは、メールよりも「コメント」や「いいね」に対する期待値が大きい部分にあります。SNSの動向が気になって常に更新をチェックし続ける心理的中毒にユーザーを陥らせることもあります。


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 マルチタスク・メール・SNS以外でも台湾のゲームプレイヤーが40時間以上ぶっ続けでオンラインゲームをプレイした後、死亡が確認された事件や、韓国では50時間以上ゲームをプレイし続けた人が死亡したこともありました。

 インターネットを中心とするデジタル社会は我々の生活を便利にしてくれる一方で、脳に昔とは比べものにならないくらいの負担をかけているのは明らかで、時にはスマートフォンの電源をオフにして、PCを閉じて脳に休息をあたえることも重要。どんなに忙しい時でもメールやSNS、スマートフォンといったツールを脳に負担をかGigazineより転載)
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