胃の一生はピロリ菌に感染しているかどうかで決まる!

胃の病気に深くかかわっているのは、ストレスよりもピロリ菌

 ピロリ菌が発見されたのは1983年、わずか30年前のことです。以後、ピロリ菌が胃炎・胃潰瘍の原因であることが判明し、ストレスやタバコから起こるという概念が完全に覆されました。胃潰瘍は一度治っても再発する一生の病気だと言われていたのが、ピロリ菌を除菌すればほとんど再発しなくなるという事実が報告されました。


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 その後、薬剤によって起こる潰瘍の存在も明らかになりました。ピロリ菌に感染していない人を対象に、どのような状況で胃潰瘍が起こるかを研究した結果、約8割はアスピリンに代表される非ステロイド性抗炎症薬と呼ばれる消炎鎮痛薬が原因の潰瘍(NSAID潰瘍)であることがわかりました。ピロリ菌に感染していない人や、NSAIDsを飲んでいない人に胃潰瘍が起こることはまれで、起きるとしても、胃潰瘍の患者100人のうち1人いるかいないかという程度です。

 ストレスがあっても、ピロリ菌に感染していなければ胃潰瘍になりにくいということが、1995年の阪神大震災に際して行われた研究で明らかにされました。胃は強力な胃酸を分泌して食物を溶かすとともに、侵入してきた細菌を殺して体を守る働きをしています。この強力な胃酸が胃の壁を傷つけないのは、胃粘膜が胃を守っているからです。ここに心身のストレスが加わると、迷走神経が活発になって胃酸がたくさん分泌されます。これにより、胃粘膜が胃酸の攻撃に耐えきれなくなって胃壁が傷つき、胃潰瘍ができるのだと考えられていました。

 ところが、震災のストレスで潰瘍を発症した人たちのピロリ菌感染状況を調べると、震災のストレス下でも潰瘍を発症しなかった人たちに比べて、明らかにピロリ菌感染率が高かったのです。このことから、ストレスだけが原因で潰瘍が起こるのではなく、そこにはピロリ菌感染の有無が大きく関与しているということが分かりました。

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 ピロリ菌は胃の中でウレアーゼという酵素を出して胃粘液中の尿素を分解し、アンモニアを作ります。アンモニアはアルカリ性ですから、ピロリ菌はこれにより胃酸を中和し、自分がすみやすいように環境を整えています。同時に、アンモニアは胃の粘膜を直接傷つけます。また、ピロリ菌は胃粘膜に有害な活性酸素や毒素も作りだします。こうした様々なピロリ菌の作用によって胃粘膜が損傷した状態がベースにあると、胃酸の刺激を受けることによって胃潰瘍が発生しやすくなるのではないかと考えられています。

感染率の減少にともない、胃の病気は大きく変わりつつある

 ピロリ菌感染が高齢者に多く、若い人に少ないのは、日本におけるピロリ菌感染率は、20代で10%以下、30代で15~20%ですが、50代だと50%以上程度に跳ね上がります。高齢者ほど感染率が高いのですが、原因は加齢ではありません。その人が生まれた時代の衛生状況によります。ピロリ菌の感染ルートは水であるとされ、上下水道が完備していなかった時代、つまり今の50歳以上の人が幼かったころはピロリ菌に感染しやすい環境でした。同じ理由で、開発途上国の中には、現在でも10代のピロリ菌感染率が80%という国もあります。今の日本では、ピロリ菌は自然界には見つからず、人間の胃の中にしか存在しません。大人の胃から上がった菌が子どもに感染することがまれにあるかもしれませんが、日本人のピロリ菌感染率は、限りなくゼロに向かって進んでいます。

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 胃がんの99%はピロリ菌感染がベースにあります。ピロリ菌に感染している人は、感染していない人に比べると、20~30倍も胃がんになる確率が高いとされています。塩分の過剰摂取といった食生活や遺伝などによる、ピロリ菌に感染していない人の胃がんも0.5~1%は残るものの、ごくまれです。現在、日本は胃がんの最多発国といわれていますが、今後、感染率の低下が進めば、並行して胃がんもまれになっていくはずです。

 同様に、ピロリ菌に感染している若年層に多かった十二指腸潰瘍や、若い女性によく見られたスキルス胃がんも少なくなりつつあります。今後、ピロリ菌感染率が顕著に低下すれば、日本では病気の種類や勢力図までもが変わってきます。

ピロリ菌除菌のメリットは、胃がん予防だけではない

 ピロリ菌を取り除いても、胃がんを100%予防することはできません。それでも、除菌には胃がんのリスクを下げるほかにも、さまざまな利点があります。2009年に日本ヘリコバクター学会が出したガイドラインでは、すべてのピロリ菌感染者への除菌治療を推奨しています。たとえば、アスピリンやワルファリンなどの抗血栓薬を飲む場合、ピロリ菌を除菌しておけば出血性潰瘍を起こすリスクがかなり下がります。また、胃MALT(マルト)リンパ腫という悪性リンパ腫の発症を抑制するなど、他の病気の予防にもつながります。胃炎だろうが胃潰瘍だろうが、『胃の一生はピロリ菌に感染しているかどうかで決まる』と言っても過言ではないといいます。

2013年にピロリ菌除菌の保険適用の対象が拡大

 従来、ピロリ菌除菌治療の保険適用は、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、早期胃がんを内視鏡で切除した場合、の5つが対象でした。それが2013年2月、ピロリ菌に感染した胃炎に対する除菌治療も保険診療で受けられるようになりました。その結果、この1年で除菌する人が2~3倍は増えています。

ピロリ菌の検査は、

(1)採血や採尿して抗体を調べる検査

(2)検査薬を服用した後に呼気を調べる検査

(3)便中の抗原を調べる検査

(4)内視鏡で直接胃の粘膜を採取して調べる検査

に大別されます。

 保険診療の枠の中で除菌するには、内視鏡検査で胃炎があることが診断されなければなりません。そのためのルートは二つあります。一つは通常の診療で内視鏡検査を受けるものです。内視鏡で胃炎が見つかり、ピロリ菌検査の結果、陽性であれば、ピロリ菌感染胃炎として保険診療で除菌治療を受けることができます。

 もう一つは自治体などで行われる胃がん検診です。胃がん検査としては造影剤のバリウムを飲んで行うX線検査が主流ですが、最近は『胃がんリスク検診(ABC検診)』が導入されつつあります。この検診は、採血してピロリ菌の血清抗体を調べ、陽性か陰性かを調べるのに加えて、ペプシノゲンという物質を調べて胃の委縮や炎症の有無(老化の程度)を調べるものです。下表の通り、A~Dの4段階で胃がんになるリスクを判定することができます。要精密検査となれば、医療機関で内視鏡検査を受け、除菌するという流れです。

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*1 ペプシノゲンとは、胃の粘膜で生成される消化酵素のペプシンを作る物質。ペプシノゲンの数値 によって、胃粘膜の炎症・萎縮の有無を判定することができる。

*2 D群は胃粘膜の萎縮が進み、ピロリ菌も棲むことができなくなった状態と考えられており、胃が んのリスクが最も高い。


検査でピロリ菌に感染していたらどのようにして除菌するか

 下図の通り、3種類の薬(胃酸分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬〔PPI〕と、アモキシシリン〔商品名パセトシン、サワシリンほか〕、クラリスロマイシン〔商品名クラリス、クラリシッドほか〕という2種類の抗菌薬)を1週間飲みます。一次除菌を行い、不成功なら二次除菌、それでもだめなら三次除菌と進みます。

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 問題は、除菌に使うクラリスロマイシンへの耐性を獲得したピロリ菌が増えていることです。風邪で医療機関を受診するとしばしば抗菌薬が処方されます。なかでもクラリスロマイシンは幅広い種類の菌に効く抗菌薬なので、かなり多用されています。その結果、知らないうちに胃の中のピロリ菌がクラリスロマイシンに対する耐性を獲得してしまっている人が少なくないといいます。クラリスロマイシン耐性が原因で、現在ピロリ菌の一次除菌の成功率は70%にとどまっており、30%のケースは不成功に終わっています。

 ここで期待されるのが新薬です。これまでの3剤併用療法では、プロトンポンプ阻害薬(PPI)が胃酸分泌を抑えることで、2つの抗菌薬が胃酸で分解されずにうまく作用するように調整していました。そこへ2015年2月、PPIよりさらに強力かつ持続的に作用する、カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)「ボノプラザン(商品名タケキャブ)」が発売されました。P-CABは、PPIとは異なるしくみで胃酸分泌をより強力に抑えます。ボノプラザンをPPIのランソプラゾール(商品名タケプロンほか)の代わりにピロリ菌の一次除菌に使った臨床試験では、除菌の成功率は92.6%、二次除菌でも98.0%の成功率だったことが報告されています。

 今後、PPIの代わりにボノプラザンを取り入れることで、除菌治療が成功する人はもっと増えるはずです。除菌治療が1回で済めば負担も減るので期待されています。

(Nikkei Goodayより編集)
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