私の心は満ち足りて(BWV204)

 BACHがこの世俗カンタータを作曲したのは、ライプツィヒのトマス・カントルに就任後1726~1727頃と推定されています。「自ら足ることを知る」という当時の道徳律を歌ったソプラノ独唱のカンタータで、特別な機会というよりは友人の家庭の音楽会で演奏されたと思われ、ソプラノを担当したのは、ケーテン宮廷付き歌手として活躍したBACHの妻アンナ・マグダレーナであったともいわれます。


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 歌詞にはケーテン宮廷と深い関係にあったハレの詩人、クリスティアン・フリードリヒ・フーノルドの「満足について」と題する詩を修正したものが使われています。

また、第8曲のアリアは結婚カンタータ「満ち足れるプライセの都よ」BWV216に転用されています。


 トン・コープマン指揮アムステルダム・バロック・オーケストラとソプラノ歌手リサ・ラーション 演奏でお聴きください。





1.レチタティフ(ソプラノ)

私は自分に満足している、

心配性の人もいるだろう、

しかし心配したからといって

財布も胃袋も満たされるわけではない。

私は金持ちでも偉くもないし、

名誉もとぼしいが、

それでも満ち足りた時が

私に心の平安を与えてくれる。

私は自分を誇らない、

愚か者は鐘を打ち鳴らすが

私は静かに自分を守る。

臆病な犬は吠えたてるが、

私は自分の行動に気を配り、

怠けて暮らしながら

それでも大きな幸運に恵まれる者がいても、

気にせず、その人の幸運にまかせよう。

私の楽しみは、

自分の欲望に打ち勝つこと、

困窮を恐れず、

空しいものに心を向けない。

このような人は堕罪の後で

再びエデンの園に入り、

地上においても幸福のうちに

救いにあずかるのだ。

2.アリア(ソプラノ)

穏やかに自分に満ち足りていることは、

この世で一番の宝。

世界のあらゆるものを手にしても、

心がからっぽなら、

何も持っていないのと同じことだ。

3.レチタティフ(ソプラノ)

お前たち、自分の外に

いつも迷い出て、

消えゆく影のような財宝と引き替えに

心の富みを売り渡す者たちよ、

欲望の力に捕らわれている者たちよ、

地の果てまで探し求めるがよい。お前

たちは、手にいれることの出来ないものを求め

手に入れたものはお前たちを

満たしてはくれないのだ。

満たされたと思っても、それは欺きにすぎず、

ついには塵のように消え去る。

宝を自分の外に持つ者は、

他人の好運で金持ちになる商人と同じだ。

そのような人には豊かさは生まれない、

たとえ破産はしなくても、

いつも破産の心配で

心が一杯なのだから。

金銭、快楽、名誉、

このような物は、

財産などといえる物ではない。

それらを無視して徳高く生きることこそ、

はるかに豊かな財産なのだ。

4.アリア(ソプラノ)

広い世界の無数の宝よ、

私の魂の平安を乱さないでおくれ。

貧しさの中で豊かであり得る者に、

天の宝は常に宿るのだ。

5.レチタティフ(ソプラノ)

多くの虚しい宝を持ち、

しかも間違った愛によって執着しないことは 難しい。

しかし、もっと難しいのは、

憂いや煩いを 重荷としないことだ。

もしかすると満足は

手に入れやすいかも知れない、

しかしこの世の美しさと同じく、

それがはかなく過ぎ去った時、

煩いの重荷がやってくるのだ。

自分の中に戻り、

自分の内に求め、

良心の呵責もなく、

天に顔を向ける、

これこそ私のすべての満足。

天もそれを助けて下さるだろう。

貝は光に照らされると開き、

その中の真珠の結実を示す。

そのようにお前の心を

天に向かって開け、

そうすれば、神の光によって

お前も宝を受けるだろう。

それは全世界の宝も

およぶことのない宝なのだ。

6.アリア(ソプラノ)

私の魂よ、満足していなさい、

神のお計らいがどのようなものであっても。

世界の大海を究めることは、

危険で虚しいことだ。

自分の中にこそ

満足の真珠を見出すべきなのだ。

7.レチタティフ

高貴な人は真珠貝にも似て、

自分の内面に豊かさを持つ。


高い身分も求めず、

さまざまなこの世の栄誉も求めない。

たとえ地上に私の領地はなくとも、

神こそ私の住みか。


多くの財産を求め、金銭という

汚物を求めても、何の助けになろうか。

財産を誇ってみても何になろうか。

すべてはこの世のものにすぎない。


虚空にさまよう者はだれか。

私はそんなことは目指さない。

私は天を目指す、

これこそ私の受くべき賜物。


友に頼ることは虚しい、

友が多くてもあてにはならない。

困窮の時に友に頼るよりは、

まだしも風の方が頼りになるぐらいだ。


もし私が快楽の中に生きて

虚栄にのみ仕えるとすれば、

私は常に不安の中にただよい、

自分を苦しめるだけだ。


時間の中にあるものはすべて滅び行き、

始まりは終わりを告げ、

一人が生まれれば、一人が死ぬ、

やがて滅亡が来るのだ。

8.アリア(ソプラノ)

天から与えられる満足よ、

その満足に自分を委ねる心は

思い煩いを知らず、

黄金の時を味わって生きるのだ、

天から与えられる満足よ。

                                             

神から与えられる満足よ、

お前は貧しい者を豊かにし、

王侯に等しいものとする、

私の胸は永遠にお前の神殿だ、

神から与えられる満足よ。
                     翻訳:川端純四郎

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