花粉症が引き起こす「眠りの三重苦」

 3月~4月は花粉症の季節です。今年は関東を中心に例年より飛散量が多く、花粉症患者を悩ませています。スギ、ヒノキの文字を見ただけで鼻水が……などという悲惨な人も含めてこの時期は老若男女を問わずマスク姿が激増します。花粉症の患者は増加する一方なので、そのうちにインフルエンザ→スギ・ヒノキ→ざわちん→ヨモギ・ブタクサ→インフルエンザ、と1年中マスクをする生活になってしまうかもしれません。

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 アレルギー性鼻炎では、くしゃみ、鼻水、鼻詰まりが3症状と言われます。鼻炎薬のCMのうたい文句になっているほどですが、これら以外にもさまざまな症状に悩まされます。勉強や仕事に集中できない、思考力や記憶力が低下する、人付き合いが煩わしい、倦怠感、疲労感、いらいら、憂鬱、などなど。そしてこれらの症状を直接間接に引き起こしているのが睡眠問題です。

アレルギー性鼻炎が睡眠に及ぼす影響

 たとえばアレルギー性鼻炎がある人を対象にしたある睡眠調査では、回答者の平均年齢は40歳ですが75%以上が睡眠で困っており、同年代の一般人に比較して寝つきが悪い、夜中に目が覚める、熟眠できないなどさまざまな不眠症状が高率にみられます。また50%以上の回答者が日中の眠気に悩んでいます。これはとんでもなく高い数値です。アレルギー性鼻炎によってなぜこれほど多くの人が夜はウツラウツラ、昼はボーッとした春先を過ごさなくてはならないのでしょうか。その理由は、眠りと目覚めを妨げる三重苦を抱えているからです。

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 第1の苦難は、鼻づまり(鼻閉)によって眠りの質が悪くなってしまうことです。鼻閉はとりわけ夜間に悪化します。鼻から息が吸い込みにくいため喉の奥(咽頭)に陰圧がかかってつぶれてしまい、ひどいときには息が止まってしまいます。睡眠時無呼吸症候群は肥満だけではなくアレルギー性鼻炎でも起こります。苦しくなって口呼吸をすると口内や喉が乾燥してこれまた気道を塞ぎやすくなります。当然ながら息が止まれば血液中の酸素濃度が低下して苦しさから睡眠が浅くなってしまいます。たとえ中途覚醒がなくても睡眠がそのような状態では疲れが取れません。

花粉のせいで睡眠時無呼吸症候群も!

 第2の苦難は、アレルギー反応で産生される免疫物質によって慢性的な眠気が生じてしまうことです。スギ花粉などアレルギーの原因物質(抗原、アレルゲン)が体に入ってくると、免疫細胞から抗体(Ig E)が放出され、その後、さまざまな細胞に作用してインターロイキン、ロイコトリエンなどの炎症性メディエイターと呼ばれる免疫物質が連鎖的に放出されます。これらの免疫物質がくしゃみ、鼻水を引き起こすのですが、中には強い眠気を生じるものが幾つもあります。

 体を温めてゆっくり休むという健康法が人気を集めているが、もともと人にはそのようなシステムが備わっており、風邪を引くと免疫物質によって体温が上昇し、ウイルスの活動を弱め、免疫細胞の活性が高まり、同時に睡眠がとりやすくなります。花粉症の時期にずっと日中にも眠気が続きます。

 ただでさえ眠いのにさらに追い打ちをかけるのが第3の苦難、治療薬による眠気です。最近でこそ眠気の少ない鼻炎治療薬が登場しましたが、アレルギー治療薬と言えば抗ヒスタミン薬、抗ヒスタミン薬と言えば眠くなるというイメージがあります。ヒスタミンはアレルギー性鼻炎のくしゃみ、鼻水の原因となるホルモンですが、同時に非常に強い覚醒効果を持つ脳内神経伝達物質としても働いています。それに抗するわけですから眠くななるのは当然です。

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旧世代の抗ヒスタミン薬では記憶力、計算能力、反応時間が低下

 眠気のない抗ヒスタミン薬の条件は、鼻に効いて脳内では働かないことですが、古いタイプの抗ヒスタミン薬は血液中から脳内に移行するため大脳皮質にあるヒスタミン受容体に結合して強い眠気を生じてしまいます。これを改良して脳内に移行しにくくしたのが第2世代の抗ヒスタミン薬です。今では第2世代が治療薬の主流になりつつありますが、未だに旧世代の抗ヒスタミン薬を好んで処方するドクターもいます。

 その理由の1つがアレルギー治療と不眠対策の「合わせ技一本!」狙いです。鼻閉がある、息苦しい、眠れない……。そこで眠気があって鼻炎にも効くなら「寝る前に」服用すれば一石二鳥ではないかと、そのように考えるのは自然です。しかしこれは2つの理由から誤りであることが分かっています。

 第1の理由は副作用としての過剰な眠気です。確かに旧世代の抗ヒスタミン薬を服用すると寝つきは良くなります。ところがその眠気は朝になっても取れないことが多く、理由は抗ヒスタミン薬はいったん脳内ヒスタミン受容体に結合するとなかなか離れにくいからです。ある脳画像研究によれば、旧世代の抗ヒスタミン薬を服用してから12時間以上経過しても、その半分は脳内ヒスタミン受容体に結合したままであったといいます。血液中からは大部分が排出された後でも、旧世代の抗ヒスタミン薬はなかなかしぶといのです。

 その結果何が起こるのか。旧世代の抗ヒスタミン薬と、睡眠薬、プラセボ(偽薬)を健康な若者に就寝前に服用し、翌日に記憶力、計算能力、特定の刺激に対する反応時間など高次脳機能に及ぼす悪影響を比較すると、旧世代抗ヒスタミン薬は、眠いだけではなく、仕事の能率が低下すること間違いなしの結果でした。

眠くなるだけでは不眠症は治療できない

 旧世代の抗ヒスタミン薬を鼻炎+不眠対策に使ってほしくない第2の理由は、そもそも不眠症の治療効果があるか確認されていないからであす。眠気をもたらす物質は山ほどありますが、イコール、慢性不眠症の治療効果がある物質とは言えません。旧世代の抗ヒスタミン薬は慢性不眠症患者を対象にして長期処方したときの効能も安全性も確認されていません。したがって慢性不眠症の治療効果があると謳ってはいけないことになっています。


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 にもかかわらず、くだんの旧世代の抗ヒスタミン薬は市販の睡眠薬としてドラッグストアの店頭で販売されています。「使用上の注意」を読むと次のように書いてあります。

「次の人は服用しないでください。」

1.妊婦又は妊娠していると思われる人

2.15歳未満の小児

3.日常的に不眠の人

4.不眠症の診断を受けた人

 花粉症患者は増加する一方で、今や日本人の5人に1人、2000万人以上いると言われています。この3/4が花粉症による眠りで困っているのですから社会に対する影響も甚大です。花粉症が車の運転にどの程度影響するか調べたある研究では、8割以上のドライバーが何らかの影響があると答えています。学校や職場で眠気が出るだけならまだしも、居眠り運転や作業中のけがなどには十分気をつましょう。

(資料:Natural Geographic他)

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