チェンバロ演奏の変遷

 20世紀初頭、ワンダ・ランドフスカによる、忘れられた楽器となっていたチェンバロの復活から、1世紀以上経過しましたが、20世紀後半、グスタフ・レオンハルトを中心とするピリオド楽器による古楽演奏活動が始まって以来、数々の名チェンバリストが誕生しました。

 そこで年代順にその演奏を振り返ってみたいと思いますが、比較するのは、当然同一の曲です。できるだけ多くの演奏が聴ける曲をYoutubeで検索したところ、以前にも演奏の比較をしたことのあるイタリア協奏曲ヘ長調(BWV971)でした。


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 最初にワンダ・ランドフスカの演奏です。1936年のSP時代の録音で音声は悪く、モダン・チェンバロなので金属的な音がします。テンポは明快ですが、第2楽章のアンダンテではかなり自由な演奏をしています。



 ランドフスカにも師事したラルフ・カークパトリックの演奏は第2楽章ではランドフスカよりも美しく歌わせています。しかし当時の楽器は音が悪く、録音のバランスも悪いのが気になります。録音は1939年です。



 ジョージ·マルコムはイギリスの鍵盤奏者で指揮者です。1952年録音のSPで、金属的なチェンバロの音ですが、テンポも速めで、当時としては画期的な演奏だったと思われます。



 盲目の鍵盤奏者ヘルムート・ヴァルヒャの録音は、1960年です。正確無比な演奏ですが、第2楽章は素っ気なく、第3楽章のプレストはテンポが遅く躍動感を感じません。



 BACHの演奏に関して一部のファンには神格化されているカール・リヒターの演奏は、1969年の録音です。あまりの真面目な演奏に、なぜか魅力を感じません。なお、この頃までチェンバロは標準ピッチで調音しています。



 カール・リヒターの対極にある演奏家は、やはりグスタフ・レオンハルトです。緻密なBACHの音楽に、アゴーギクというテンポの揺らぎを取り入れ、ピリオド演奏に大きな影響を与えました。特に第2楽章のアンダンテは素晴らしい演奏です。録音は1976年で、もちろんバロックピッチです。楽器はハンブルグで復元されたクリスティアン・ツェルで演奏しています。



 同時代のトレヴァー・ピノックは、逆にアゴーギクを排したリズミカルな演奏をしています。録音は1980年ですが、なぜか標準ピッチで調律しています。



 若くして夭折したスコット・ロスも素晴らしい演奏を残しています。しかし第2楽章をもう少し歌わせて欲しかったと思います。録音は1988年です。



 フランス生まれのクリストフ・ルセは、僅かなアゴーギクをつけて演奏をしています。ヨハネス・リュッカースの楽器の音も柔らかく魅力的です。録音は1990年です。




 パブロ・ヴァレッティーとカフェ・ツィンマーマンを設立したセリーヌ・フリッシュは、演奏会の録画なので仕方ないのですが、テンポが安定せず、少し落ち着きのない演奏です。演奏は2013年頃だと思います。



 最後は昨年わずか23歳でデビューしたフランスのジャン・ロンドーです。2012年、21歳でブルージュ国際古楽コンクールのチェンバロ部門1位を受賞して以来、その素晴らしい感覚は、次世代を担うチェンバリストとして高い評価を得ています。この曲は2014年に録音されました。使用楽器は、ジョンテ・クニフとアルノ・ペルトが2006年に製作したドイツ式チェンバロです。



 歴史的に振り返ってみると、昔の演奏はテンポが遅かったわけではありません。ヘルムート・ヴァルヒャやカール・リヒターの時代にテンポの遅い演奏が、好まれたようです。調律はレオンハルト以降バロックピッチが主流になりました。

 一番美しい演奏は、やはりクリストフ・ルセです。師匠のグスタフ・レオンハルトを超えています。3つの楽章のテンポ配分も素晴らしく、スコット・ロスもこの演奏には及びません。しかし今年レコードが発売になったジャン・ロンドーの演奏には大変驚いています。テクニックはもちろん、特に緩楽章での和音のずらし方やテンポの揺らし方は絶妙です。今後最も注目されるチェンバリストです。

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