がんは10年以内に不治の病でなくなる?

 「がんが不治の病でなくなるのは数年後。遅くても10年以内にはそうなる」先端医療振興財団理事長の本庶佑(73)はこう予言しています。

 本庶の言葉に自信がみなぎるのはPD-1と呼ばれる分子のメカニズムを解明したという自負があるからです。PD-1分子のメカニズムの解明は2014年、日本の製薬メーカー、小野薬品工業と米製薬大手が実用化した「オプジーボ」(一般名ニボルマブ)という新世代のがん治療薬につながりました。

 この治療薬のおかげで手術もできない末期がん患者の生存率があがった実例がいくつも確認されたほか、がん細胞が消失する「寛解」の患者すら現れました。今や世界中のあるゆる研究機関、製薬企業が研究を進めています。

img.jpg


「門外漢」の知見

 そのPD-1分子のメカニズム解明から生まれた治療薬、オプジーボとはどんなものでしょうか。決定的なのは抗がん剤などこれまでの治療薬と全く異なることです。抗がん剤は直接、がん細胞に作用しますが、オプジーボはがんではなく、免疫細胞を活性化させ、がん細胞を撃退します。

 では、どうやってオプジーボは免疫細胞を活性化させるのでしょうか。がん細胞は増殖できるよう、外敵を撃退する役割を持つ免疫細胞の監視の網をくぐり抜ける必要があります。そこでがん細胞は免疫細胞をだまし、敵として認識されないようにします。

 本庶が解明したのは、このがん細胞が免疫細胞をだますからくりです。がん細胞が免疫細胞をだます際、免疫細胞の表面にあるPD-1という分子を利用することを突き止めたのです。

 がん細胞は免疫細胞の表面にあるPD-1と手を結んで結合してしまいます。こうなると免疫細胞はがん細胞を敵として認識できなくなり、がん細胞はその隙を突き体内で増殖、転移していきます。

 ならば、がん細胞が免疫細胞のPD-1と結合しないよう結合を「妨害」してやればいい。そのためにオプジーボを使い、両者の結合を妨げます。そうすれば免疫細胞は外敵を見つけ除外するという本来の「仕事」に戻りがん細胞も撃退してくれるというわけです。

PB1-6.jpg

 こうしたがん治療を根本から変える世界的な発見は本庶の専門ががん領域ではなかったからこそ、可能だったと言えます。本庶の専門は分子生物学で、なかでも最も人体の根幹を支える免疫研究が中心です。


個人差解明カギ

 PD-1の発見も、もともとは免疫を分泌する胸腺という胸の中央部にある器官の研究中の偶然に近い出来事でした。当初はどんな働きをするのか、仕組みがどんなものか、全く分からなかったといいます。

 しかし、本庶はその海の物とも山の物とも分からない分子であるPD-1を放っておきませんでした。「遺伝子の欠損技術を使えば何か異常が起きるはず」。そう思ってPD-1遺伝子を欠損したネズミをわざとつくってみました。あえてPD-1を欠損させたネズミがどんな異常を来すのか、観察すればPD-1の働きが解明されると考えたのです。

 すぐにはネズミに異常は発生せず、PD-1の働きは解明できませんでした。それでも本庶はあきらめず6年かけてネズミの交配を繰り返しました。そしてPD-1ががん細胞と結びつき、免疫細胞の動きにブレーキをかける仕組みを突き止めました。PD-1ががん細部と結びつかないようにしてみると、動物のがん細胞が消える結果が出ました。

 ただ、まだ一定数オプジーボが効かない人もいます。今度はその一定数をゼロにすることが本庶の目標になりつつあります。

(日経Webより)
スポンサーサイト
コメント
コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する