ハイテク照明が快眠へと誘う

 科学者たちの間では以前から、照明の輝度や色が人に強い生物学的な影響を及ぼすことが知られていました。しかし、それが実際に応用されてきた分野は宇宙飛行士のために24時間周期の環境を人工的につくるとか、新生児の黄疸(おうだん)の治療といった目的に使う照明装置などに限られおり、しかも一つが30万ドルもするほど高価でした。

 ところが今日では、特にLED発光ダイオードなど照明の技術的な高度化が進み、価格も安くなり、企業は一般消費者向けに、いわゆるバイオロジカル・ライティング(biologica lighting=生物学的な照明)の開発に取り組んでいます。

 この分野には、ベンチャー企業から最大手の電気製品製造会社までが参入しています。たとえばGE(ゼネラル・エレクトリック)社は光の色が変化するLEDを発表しました。これはApple社の「Homekit」システム(iOSデバイスと家電をつなぐためのフレームワーク)に合ったGE・Alignの商品で、自然の睡眠サイクルに応じて自動的に変化する照明器具です。

 Philips(フィリップス)社は2年前、「Hue」を発売しました。Wi-Fi接続型の電球で、目覚めや緊張をほぐす「光のレシピ」を提供するApple社のシステムに連動しています。

 スーパーマーケットを含む商工業施設向けのスマート照明システムの開発運営会社デジタル・ルーメンスは、照明の濃淡や発光波長を制御することで若者の学習力を高める研究をしているブラウン大学(在ロードアイランド州)に研究用の照明器具を納入しています。また、LumiFiルミファイ)という会社は、一般家庭やホテルなどの商業施設の照明器具に「休息」「活気」「集中」「セクシー」といった設定を組み込み、好みに応じて照明を調整できるアプリを開発しました。

 この種の照明器具が市場に出回るようになり、誰もが手ごろな価格で制御システムも使えるようになりました。

 市場調査会社ラックス・リサーチでバイオエレクトロニクス( Bioelectronics=生体電子工学)部門を率いるミロス・トドロウィックによると、企業は照明技術の健康分野への応用にも力を注いでいます。人の気分を変えたり、体内で実際に起きている現象に影響を与えたりすることです。たとえば、照明技術を使って、傷を癒すためのコラーゲンの再生をいかに促進するかです。

 こうした新しい消費者向けの照明器具は、眠りに就く時間がきたことや活発に動くべき時間になったことを視覚を通じて脳に伝えて休息や目覚めといった人間の身体の基本的欲求を調整するようデザインされています。

 発光スペクトル(光の強度分布)の青色の光である短い波長光には、睡眠を誘発するホルモンのメラトニンの放出を抑える作用があります。白色の人工光、とりわけ電球や彩色されたスクリーンに使われるLEDは一般的に青色の輝度が高いため、夕暮れ後にそれをあびると眠気が薄れ、覚醒が進むので、睡眠不足につながりやすくなります。

 過去50年の間に、人が浴びる人工的な光の量は1人当たりで10倍以上に増えました。つまり、太陽が沈んでから床に就くまで、すべてが非常に明るくなっているのです。それが何を意味するかというと、人の体内時計の進行具合が3時間から5時間押し戻されたのと同様の結果を招いているといいます。したがって就寝時間が遅くなりました。しかしその割に朝は相変わらず「ニワトリと一緒」に目が覚めてしまいます。

 日没後、より黄色く見える長波長の光を発する照明を使えば体内時計の狂った周期を修正できるといいます。長い波長の光は眠くなるホルモンや神経の働きをさほど妨害することはありません。

 研究者たちは、照明のスペクトルや輝度が脳にどう作用するかを調べています。睡眠だけでなく、覚醒の度合い、生産性、学習などとの関係がどうなっているのかについてです。

 高輝度の赤い照明はメラトニンの働きを抑え込むことがなく、活力を刺激する作用があります。ブラウン大学では、スペクトルと輝度の両方に着目し、若者たちが学習中に覚醒していられる照明システムの開発に取り組んでいます。

(The New York Times Asahi Digitalの抄訳より)

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