減塩はどこまで必要か? 高血圧の95%はいまだ原因不明

「食塩」と「高血圧」の関連

 脂肪や糖などの摂りすぎを気にする人が増えている一方、最近、かつてほど減塩が騒がれないのは、「塩分イコール高血圧のもと」が人々に定着し、減塩が浸透しているからでしょう。


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 この背景には、1970年代の減塩ブームがあります。「塩は悪者」と刷り込まれて、しょっぱいものを食べるとなんとなく罪悪感にかられる人も多いことでしょう。

 減塩ブームは、まず1960年代に米国で起きました。きっかけは、1961年に米国のブルックヘブン国立研究所のルイス・ダールが疫学調査で、食塩摂取量と高血圧の発症率に相関があることを示唆したことです。減塩ブームは、日本にも広がり、食塩摂取量の多かった秋田県や長野県などで減塩運動が行われたことはよく知られています。

 しかし、ダールの疫学調査の後、ほかの科学者によりさまざまな動物実験や臨床調査が行われましたが、再現性のある結果が得られませんでした。科学的な根拠が不明瞭なまま、「塩分を摂りすぎると高血圧になる」ということが、定説化しました。減塩の必要性が明確なのは、腎臓疾患など一部の人のみです。


年々少なくなる日本人の食塩摂取量

 たしかに日本人の食塩摂取量は多く、戦前は1日に20グラム近くも食塩を取っていたと考えられます。1975年の日本人の食塩摂取量は男女とも1日あたり13~14グラムでしたが、年々減少し、2014年の国民健康栄養調査によれば、成人の食塩摂取量は男性10.9グラム、女性は9.2グラムでした。

 1979年に厚生省が食塩摂取目標量を1日あたり10グラムと定めましたが、食塩摂取量の減少にともない何度か見直され、2015年には、1日あたり男性で8.0グラム未満、女性7.0グラム未満に引き下げられました。

 これは世界保健機構(WHO)が推奨する1日あたり5グラム未満よりも多いのですが、和食は醤油やみそなどの調味料を使うため、基本的に塩分が多くなります。高血圧や腎臓疾患のある人の食塩摂取量の目標値が3~6グラムですから、1日5グラムの食塩では、和食になれた健常人にとっては、ほとんど味のない生活になり、耐えられない人もいるでしょう。


高血圧の95%は原因が不明確

 食塩の摂取量はどこまで減らすべきなのでしょうか。こんなに食塩摂取目安量が少なくなると、「食塩ゼロが理想的な食生活」という誤解を生んでしまうかもしれません。

 しかし生命を維持するために食塩は不可欠です。1日に1グラムほどの食塩は最低限必要だと考えられています。古代、食塩が貴重だったころの人々は、動物の肉や血を食べることで塩分を補いました。江戸時代には、塩不足で死者が出ることもあったといいます。

 摂取した食塩(塩化ナトリウム)は、ナトリウムイオンと塩素イオンとして小腸から吸収され、ほとんどが尿中に排出されます。腎臓はナトリウムの排出器官であり、調節器官でもあります。

 体内のナトリウムイオンは、血液などの体液量を調節する主役です。細胞内にあるカリウムイオンとのバランスで浸透圧を維持することで、体液量を調節しています。また、生体内の情報伝達に関わり、神経や筋肉の働きに重要な役割を果たしています。

 ナトリウムの吸収や排出は「レニン-アンギオテンシン-アルドステロン系」というホルモン系でおもに調節されています。このホルモン系は、尿の排出量を調節し、ナトリウムを再吸収することで血圧を正常に保とうとする調節機構であり、塩分の過剰摂取や不足により浸透圧が変化した場合も働きます。



 塩分の過剰摂取が続けば、高血圧の原因になると言われています。そもそも高血圧とは、血管内を流れている血液の圧力が高くなり続けている状態のことで、脳卒中や心筋梗塞の原因となる動脈硬化を促進します。

 じつは、高血圧の95%は本態性、つまり原因がよく分かっていません。生活習慣や遺伝による体質、肥満などいろいろな要因が複雑にからみあって発症すると言われていますが、その原因は解明されていません。

 結局、高血圧の原因もよく分からず、「食塩を摂りすぎると高血圧になる」という常識が成り立ってきたのです。


食塩の感受性は人によって異なる

 「食塩を摂りすぎると高血圧になる」という因果関係を明確にできないのは、高血圧のなりやすさには個人差があり、食塩を摂ると血圧が上がり、減塩すると血圧が下がるという単純な仕組みだけではないからです。

 世界には食塩を使わない「塩なし民族」と言われる人々がいます。塩なし民族は、動物の肉や血液から間接的に塩分を摂取する程度です。


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 そのうちアマゾンの原住民であるヤノマミインディアンの血圧を調べたところ、年齢に関係なく血圧の高い人はいませんでした。一方、おなじインディアンですが、食塩を使うようになったテレナインディアンは血圧は高かったと1992年に報告されました。

 これで食塩と高血圧の発症が関連していることが人で示されました。しかしすべての人が、食塩を過剰に摂取すると血圧が上がり、減塩すると血圧が下がるわけではないことも明らかになっています。

 これは食塩に対する血圧の反応性が人によって異なり、食塩を摂りすぎると敏感に反応して血圧が上がりやすい食塩感受性の人とそうでない人がいるためです。食塩感受性は以前から知られていましたが、その違いがどうして生じるのかは解明されず、食塩感受性の定義も定まらないので、食塩感受性があるか、ないかを判定することも難しかったわけです。

 2011年に東京大学の藤田敏郎教授らが、動物実験によって食塩感受性高血圧の分子メカニズムを解明しました。塩分感受性のネズミは、食塩を摂りすぎると、腎臓の交感神経が活発になり、塩分排泄に関わる遺伝子の働きが抑えられてしまいます。その結果、体内にナトリウムがたまり、血圧が上がるのだといいます。

 さらに研究が進めば、個人の塩分感受性に応じた治療法や分子メカニズムを標的とした高血圧の治療薬が開発される可能性があります。


「現状よりやや減塩」が現実的な選択

 極端な減塩をすると高血圧とは別の健康障害をもたらすことも知られており、減塩に関する議論は続いています。ただ、疫学調査の結果からは食塩の過剰摂取と高血圧の発症の相関は明らかなので、摂りすぎに気を付けるのはもちろんのことです。しかし、食塩の摂取量だけを気にしても高血圧の問題は解決しそうにありません。

 高血圧に大きくかかわるのは、食塩摂取量ではなく、ナトリウム摂取量です。ただし、私たちは、調味料に含まれるグルタミン酸ナトリウムなどからもナトリウムを摂取しているので、それらのナトリウムに気をつけるのも一考です。加工食品には、ナトリウムを多く含むものが多く、ナトリウム量を表示する食品も多くあります。

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 また、体液中のナトリウムの濃度は、カリウムとのバランスで決まり、カリウムが多ければナトリウムは排出されます。カリウムをたくさん含む野菜や果物を食べて、十分な量のカリウムを摂取しましょう。なお、一部ににがりの多い塩や塩田でつくった塩が「天然塩」と称され、高血圧を予防できるという誤解があるようですが、どんな塩であろうとも塩化ナトリウムであることには変わりがなく、高血圧予防効果はありません。

 人によって適当な食塩量は異なるし、高血圧を気にしすぎて、おいしいものをがまんするのはもったいないので、バランスのよい食事を心がけることで、豊かな食生活を送りたいものです。

(Japan Business Press より)
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