梅雨時の咳や痰は、ホコリに潜むカビが原因?

カビの棲みかは浴室や台所だけではない

 カビはお風呂場などのジメジメとした湿度の高い場所に生えると思われていますが、実はリビングや寝室のようなごく普通の居住空間にも、たくさんのカビが棲んでいます。一口にカビといっても性質はさまざまで、屋内のカビの場合、水回りのカビとホコリのカビで、この2系列に大きく分けられます。


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 浴室やトイレ、台所にいる“水回りのカビ”と、リビングや寝室にいる“ホコリのカビ”の性質は全く違います。水回りのカビは湿気が大好きで、湿度90%くらいの環境に生えます。それに対し、比較的湿気がなくても生きていけるのがホコリに潜むカビで、ホコリと一緒に空気中を漂っています。

 水回りのカビが原因で起きる病気には、喘息や副鼻腔炎などのアレルギー疾患や、夏型過敏性肺炎などがあります。夏型過敏性肺炎は、古い木造家屋の腐った木や浴室、トイレなどに発生する、トリコスポロンという真菌を吸い込むことで引き起こされる肺炎。肺を破壊することもある病気で、たびたびメディアにも取り上げられますが、実際の患者数は数千~2万人以下とみられており、頻度としては非常に少ないといいます。

 むしろ怖いのは、ホコリのカビの1つ、アスペルギルス・フミガタス(以下、フミガタス)が引き起こす、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症だといいます。われわれは、浴室で24時間過ごすことはなく、むしろリビングや寝室のホコリを吸う機会のほうがずっと多いはずです。梅雨時に湿度が高くなるとホコリも湿気を含むようになり、カビの格好の棲みかとなります。しかも、そこに有害なフミガタスが潜んでいれば、病気のもとになることがあります。


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 アスペルギルスには250~300もの種類があり、中にはまったく無害のものも存在します。たとえば、アスペルギルス・オリゼーは、日本人には馴染みの深いコウジカビです。オリゼーは塩麹や醤油、味噌などの旨み成分を出してくれるありがたいカビですが、フミガタスは違います。

 フミガタスを吸い込むと、アレルギー反応を起こし、気管支炎や肺炎を引き起こすことがあります。これが、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(以下、アスペルギルス症)で 、治療が遅れると、肺の組織が破壊され、呼吸不全を招きかねない、怖い病気です。国内に20万人もの患者がいると推測されます。


アスペルギルス症は、7~8年も診断がつかないことも

 アスペルギルス症が怖いのは、専門医でも見逃す「ドクターズ・ディレイ(doctor's delay)」が多い点です。ドクターズ・ディレイとは、適切な診断・治療が遅れることですが、この病気の場合、症状が出てから診断がつくまで7~8年かかることもあるといいます。アスペルギルス症は咳や痰などのありふれた症状が多く、風邪や気管支炎、通常の喘息と紛らわしいからです。また、ここ数年、「長引く咳=咳喘息の可能性が高い」という認識が医師の間に広がってきたこともあり、咳喘息の診断を受け、治療していたのに、実は咳喘息ではなくアスペルギルス症だった…というケースも後を絶たないといいます。

 発症しても必ずしも重い呼吸器の症状が出るとは限らない点も、アスペルギルス症の特徴です。症状のピークがはっきりしないまま息切れや咳・痰がジワジワと出て、むしろ軽い症状のまま過ごす人も多く、極端な例では、健康診断の胸部X線検査で異常な影が発見されて判明したという人もいます。しかし中には、本人も気づかないうちに、肺の組織変化(線維化)が進んでしまうケースもあります。肺の組織はいったん破壊されると元には戻らず、徐々に呼吸が困難となり、最終的には酸素吸入をしなければ生活できなくなってしまいます。


フミガタスは免疫が低下している人に感染症も引き起こす

 では、カビの多い環境に住んでいると、誰もがアスペルギルス症になってしまうのでしょうか。実はそうでありません。カビに対するアレルギー反応を起こすかどうかには体質が大きく影響します。一番注意が必要なのは喘息を持っている人です。アスペルギルス症患者の9割以上は喘息を持っていることがわかっています。アスペルギルス症の発症と喘息の重症度には関連はなく、軽い喘息の人でも発症することは少なくないといいます。もちろん、喘息がなければ大丈夫、というわけでもありません。

 また、まれですが、重度の免疫不全や、抗がん剤の治療を受けて白血球が減っている状態など、極端に免疫が低下している場合は、フミガタス自体が肺の奥まで侵入し、強力な感染症を引き起こすこともあります。


根本的な改善策は、薬物療法よりも「環境改善」

 アスペルギルス症を診断するには、スギやダニのアレルギーと同じように、血液検査でフミガタスに対するアレルギーの有無を調べます。治療は、抗真菌薬に加え、喘息の薬も用いるのが基本で、アレルギーと感染症の両面があるため、この2つを併用すると効果が高いとされています。

 しかし、根本的な解決のためには、環境対策が第一です。アスペルギルスは 屋内に潜む可能性が極めて高く、無害なタイプならどの家にも100%存在します。有害なフミガタスでさえ、2~5割、つまり多ければ2軒に1軒もの割合で存在しまする。

 フミガタスが好んで棲む場所は下表の通り。この性質を踏まえた環境づくりで快適な夏を過ごしましょう。


アスペルギルス・フミガタスは部屋のどこに潜んでいる?


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湿度の低い部屋に移るか、湿度が50%以下になるよう調整する

 フミガタスを避けるには、理想的には、部屋を替えるのがベストだといいます。アスペルギルス症の患者は、北側の部屋に住んでいるということがよくあります。できるだけ風が通りやすく、東と南に窓がある部屋が良いに越したことはありません。根本的に解決するなら引っ越しが最善策ですが、たとえば一軒家で1階北側に寝室があるなら、2階南側の部屋に移るだけでも大きな改善が得られるはずです。

 とはいえ、スペースや間取りの都合上、部屋を替えるのが困難な家も多いでしょう。そうした場合は、せめて除湿機で湿度を下げます。その際の目安は「湿度50%」。50%を切るとカビが生えにくくなるので、チェックするために湿度計を置きます。ただし、部屋の中央付近と、家具と壁のすきまのようにホコリが多い場所とでは、湿度がかなり異なるため、湿度計は、ホコリが溜まりやすい場所の近くに置きます。


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カビはエアコンの内部まで入り込み、空気中に飛散する。


カビをまき散らさないよう、エアコンの管理を徹底する

 カビはエアコンの内部まで入り込み、部屋中にまき散らされます。しかも、普段の掃除では簡単に落とすことができないのが難点です。

 カビをきちんと除去するには、カビの生えた部分を直接こすったり、アルコールで拭いたりと、徹底的に掃除する必要があります。しかし素人にはエアコンの内部まで手が届きません。エアコン掃除用のスプレーで手入れしても、表面がきれいになるだけで、奥に生えたカビを除去するのは無理です。喘息の人など、カビアレルギーが気になる場合は、専門業者にクリーニングを頼むなどの予防策が必要です。


空気清浄機があるから大丈夫、と過信しない

 空気清浄機を使うことは悪いことではありませんが、部屋全体のカビを除去するほどの機能はないのが現実です。アスペルギルス症を診察する時、フミガタスに対する血中の抗体価を測りますが、空気清浄機を使って改善した人はいないといいます。それよりも、部屋を替えるような根本的な対策が効果的です。

(日経Goodayより)
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